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「信じてくれ。おれはあの本をそんなつもりで書いたんじゃない。あれは子供向けの本だ。ただの冒険小説だったんだ。そんな本を信じるやつがいるなんて! 思いもしなかった!」
 世界中の子供に夢を持ってほしいと、本を書いた。空中庭園で生命の実を食べた主人公が不死になって世界を旅する話。それまで自分が体験してきたこと、仕えた王の話や、素晴らしかった騎士や、悪巧みをする大臣や、世界中の不思議な話がたくさん詰まっている本だ。
 その本は絶賛された。子供達が楽しそうにその本を読んでくれるのを見て、とても嬉しかったことを覚えている。
 ただそれだけのこと。そんな本を読んでどこかの国の王が軍隊まで出すなんて、誰が予想するだろう。そんなことで故郷が滅んでしまうなんて。大好きな人たちが死んでしまうなんて。
 一体なんと謝ればいい。誰に謝ればいい。誰が赦してくれるというのだ。

「知っていたとも。お前に悪意がないことくらい。ラルレはお前を選んだんだ。自分で選んだ住人を信じないわけがない。誰もお前を責めなかった。最後まで誰も。それをお前に伝えたかった。終焉を呵責で飾ってほしくなかったから。だからどうか悲しまないでほしい」
 言葉が出なかった。あの心優しい人々は最後まで彼を愛していてくれたのだ。
 なんという温かな気持ちなのだろう。もう彼には、もう何も、心の中に何も無かった。何の未練も微塵の悲しみも。
 だから彼は後継者にきいた。最後に訊くべき質問を。


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