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「完璧に穏やかなる世界だった。それが永遠に続くことをラルレは心から願っていた。だがある時、一人の男が庭園を出たいと言った。お前だ」

「おれか。おれが調和を乱した? 理想郷の永遠が壊れたのは、おれが出ていきたいと望んだからか」
 その先の答えを聞いてはいけない。
 彼の中の何かがそう忠告していた。否、最初から彼は何となくわかっていた。自分の求める答えは自分を破滅に追い詰めるものだと。
 それでも知りたかった。こんなにも苦悶した長い時間に対する答えを。

「お前はもともと冒険者の血筋。優れた探究心が永遠の安楽の場所にいることを嫌がった。その気持ちを汲んでラルレは止めはしなかった。強制は理想郷にあってはならないことだ。ラルレは最後に庭園の記憶が消えないようにした。庭園から出れば
お前は百年分の記憶しか持てない。庭園を忘れてしまわないように、いつ帰ってきてもいいようにと」
「だがなぜ庭園はこんな姿に? それから何があった」
「お前が庭園の事を本に書いたからだ。お前は全く知らないだろうが、その本を読んだある国の王が庭園に軍隊を差し向けたのだ。王が不老不死を望んで生命の実を欲しがった。この姿はその結果だ」
 そうだ。そう、その通りだ。
 彼の目は見開かれ、招かざる涙が溢れ出ては幾筋もの軌跡が頬に刻み込まれた。
 自分の書いた本のせいで理想郷は一夜にして滅んだ。全てを捧げ何よりも住人たちを愛していたラルレの計画も終わった。
世界で最も美しく尊い場所を。愚かな自分のせいで。
多くを憎んだ。憎みすぎて戻れなくなった。
 変わってしまった。もう選ばれし住人ではない。心が優しかったり穏やかだったりしたのは遠く昔のこと。
 後悔と恨みと恐怖に責め続けられながら、何百年も生きていた。
 そうか、あの心が晴れない感じ。いつも張りつめて感情が溢れそうだったのは。それだったのか。


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