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「お前の名だが、忘れたか」

「おれは何だ。おれは自分が何か、どうやって生きてきたか全ての記憶を突然に失った。おれに唯一残っていた記憶は空中庭園の場所だけ。何が起こったのか全くわからない。一日一日を生きているらしいが何も覚えていられない。おれは答えがほしいんだ。お前はおれを救えるか?」

アンジェルはその白い塊にしがみついて聞いた。微笑むことはなかったが、冷たい手でアンジェルの涙を拭った。

「落ち着くんだ。アンジェル。私はラルレの後継者。ラルレは理想郷建設計画に失敗した。その後の処理を行うのが私の役目。だが安心してほしい。我々はお前を責めたりしない」

「ここへ来れば全部わかると思ったんだ。答えがあると。おれの存在に対する答えが。おれは庭園に何かした。とても恐ろしいことを。なぜだか分からないがそんな気がする」

それは悪夢のように襲ってくる。形無く正体の知れぬものが、まるで雨のごとく降る矢のようにたくさん。形無き攻撃にいつも責められてゆっくりと息をすることすらままならない。
思い出せないけれど、それを許してほしい。

「全てを知るがいい。私はお前を救えるだろう。答えを与えるのもまた私の役目」

アンジェルは後継者を偉大だと思った。慈悲深く寛大であると。ラルレのように。

「元々、お前達の脳には百年の記憶しか入らない。記憶がなくなったのはお前が長く生き過ぎ、時が経ちすぎたせいでなんらかの障害が起きたのだろう。障害が起きる前までは常人の生活ができたはずだ。まず記憶の件は理解してもらえただろうか」

後継者の白い顔に表情はなかったが、何とも言えぬ優しさを感じる。

「生き過ぎた、だと。おれには日の感覚がまるでないんだ。おれはどれくらい生きている。おれは何者なんだ」

「ラルレに選ばれし者の一人。記録によれば523年生きている。500年ほど前にラルレは地上に理想郷を建設する計画を立てた。その理想郷の住人には最も心や優しき者たちが選ばれ、長い計画の中で、彼らが死んでしまわないように生命の実を与えて不老不死にした」


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