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彼はエメザレを抱きながら、城の外を目指した。エメザレの血液が段々と己の服に染みてくるのがわかる。悪徳を尽くして買った高級な白い服。それなのに汚れるのが不愉快ではない。それは彼の中で仕事が終わりを告げたことを意味していた。

「ザカンタまで送るそうだ」
「本当に酷いですね。これで私はお払い箱ですか。酷いな。どうして殺してくれなかったんですか」

ジヴェーダの腕の中で、擦れた声のエメザレは自嘲を含みながら言った。

「俺は殺すのが仕事じゃない。殺意を抱いて殺すのと、拷問の結果として殺したのでは意味が違う。俺はお前の事が心底気に食わないが、それ以上に仕事に忠実なのさ。悪かったな」
「私は――あなたが憎くないと言うと嘘になる。私を……散々屈辱したうえに、こんな風に、こんな身体にした」
「そうだろうよ」
「でも私は、こうなるだろうと思ってここに来ました。覚悟してきたんだ。だから、あなたを憎まない。あなたの拷問師である部分を憎みます。でもあなたを恨まない。私には見えないけど、きっとあなたはいい人なんだ」

そう言ったエメザレは、もう面影など残っていないのに、宮廷に来たときと同じ、なんの恐れもない穏やかな威厳を携えていた。

「残念だな。俺にも見えないよ」

エメザレの真っ直ぐな瞳から目を逸らし、ジヴェーダは前を見た。外はもうすくである。宮廷の開かれた扉の外には鉛色の重い空が広がっている。

「もう会うことはないだろう」

狭い馬車にエメザレを押し込めてジヴェーダは言った。

「そうですね」

力なくエメザレはつぶやき、そして唯一自由のきく右手をあげてみせた。

そして馬車は英雄と謳われた男を乗せて走り出した。早朝の冷たい霧の中にやがて馬車は消えていったが、ジヴェーダはなぜか見えなくなった馬車をいつまでもいつまでも、まるで忘れ去った何かを探すように見送っていた。



おそらく正義との別離


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