「叫ぶ男」の中では時代背景の描写をほとんどしませんでした。単純にギュリガラに関係ないので必要なかっただけなんですが、「叫ぶ男」は未来の話です。白い王子の時代からだいたい6500年が経っています。
舞台は第8期1965年のジルオゴム王国です。
国名はラルグイムがでてきましたが、このラルグイムは帝政ラルグイムとはあまり関係がありません。古代ローマ帝国と神聖ローマ帝国があんまり関係ないのと同じことです。帝政ラルグイムはとっくに滅びていますが、伝説的大国ということで縁起を担いでラルグイムと名乗っているだけです。第二ラルグイムとか新興ラルグイムと呼ばれてます。
で、肝心のジルオゴム王国は、ミレニ連邦帝国の中の一カ国ということになっています。このミレニ連邦はダルテスが形成しているのですが、少し変わっていて、芸術や文学やファッションの分野で特化しようと試みていました。というのも大昔に滅びた種祖ダルテスの直系のスドラフ民族が、ダルテス民族で唯一学問と芸術の分野で秀でていたので、ミレニ連邦はダルテス文化を活性化させるために、スドラフの英知を復活させようとしていたわけです。
ミレニ連邦の中で、その運動に特に力を入れていたのがジルオゴム王国でした。ジルオゴム王国は主に芸術分野に力を入れていました。才能のある画家や彫刻家や音楽家はかなり裕福な暮らしができ、王の加護と「芸術行為を冒涜されない」特権を得ることもできました。ミレニ連邦内の外国から優秀な芸術家を集めていましたし、名の無い芸術家達はジルオゴムへ行くのが夢でした。
文中、ギュリガラがサーベを虐待しているのを世間は知りながら、見て見ぬ振りをしていたのはこの特権のせいです。要は「生類憐みの令」の芸術家版がある国ということです。
ちなみにジルオゴムは芸術に陶酔しすぎたせいで滅びます。しかしそのお陰でミレニ連邦は全体の勃興に成功しました。掘り進めるとキリが無いのでこの辺りにしときますが、ジルオゴムとミレニ連邦の歴史はお気に入りのストーリーなのでいつかお話をしたいです。ジルオゴムの王様が歴代変人揃いで好きです!
そんなわけで努力の甲斐あって、ジルオゴムは歴史に名を残すような芸術家を多数輩出しました。ギュリガラはその中で「三大恐怖画家」の一人に数えられています。
三大恐怖画家の中の二人は、ギュリガラ、アントベーで文中出てきたラルグイムの残酷な流行で有名になりました。
ところでギュリガラは同性愛者でも小児性愛者でもサディストでもありません。いや、そういうことになってしまうかもしれませんが、それは絵を完成させるために必要だったからで、元々の気質はそうではありませんでした。しかし、後の歴史では同性愛者で小児性愛者ですごいサディストとして語られてしまいます。なんだか可哀想ですが、歴史ってそういうもんです。
可哀想と言うならアントベーも可哀想で、彼はギュリガラとほぼ同年代に活躍したのですが、ものすごい貧乏で画材を買うお金がありませんでした。そこでアントベーは手っ取り早く稼ぐために傭兵に志願しました。惨憺たる戦場に出会ったアントベーは、戦争の悲惨さを伝えようとして持ち歩いていた紙と木炭を使って戦場の様子をスケッチしました。契約の期間が終わり、彼は家に帰ってそのスケッチを元に戦場の絵を描き、それがラルグイムの流行に乗っかって話題になり有名になったわけですが、後の歴史では戦場に画材一式を持っていき、剣片手に敵を殺しまくって絵を描きながら大笑いして戦っていた変態ということになっています。可哀想です。
もう一人の恐怖画家はパトエーニと呼ばれる死体画家で、ギュリガラとアントベーの時代より少し後のひとです。パトエーニは絵が下手で、美しい顔しか描けませんでした。ある時パトエーニの親友が死んでしまい、親友の最後の様子を残しておきたくて親友の死体の絵を描きました。完成した絵は親友を300%くらい美化して描かれていたのですが、遺族はそれをパトエーニの好意だと思って喜び、美化された最後の瞬間を売ってほしいと、絵を結構な高値で買い取りました。それが話題になり、パトエーニは死体の絵を延々描かされることになるという、これもこれで可哀想なお話です。
ちなみにギュリガラは拷問画家、アントベーは戦場画家、パトエーニは死体画家というあだ名が付いています