今宵、悪魔とワルツを(圭人×彰宏メイン)
2014/08/04 14:17

島崎家
父・雄輔が牧師で町の教会を運営している。
家族構成は本編通り。

長浜兄弟
長く続いた戦争で両親を亡くしている。
この二人を引き取る事が雄輔が孤児院を開くきっかけになった。

由利(寺門)・翔(名張)
同じく戦争で身内を亡くし、孤児院に引き取られている。

舞台設定

架空。日本語文化圏の何処か。世界対戦終戦から少し経ったあたり。少しずつ復興してきている小さな街。




「さあ皆さん、今日も日々の糧をいただける事を父なる神に感謝しましょう。アーメン」

「アーメン」

孤児院の主であり牧師である雄輔が、夕食の前の祈りの合図をする。
雄輔の妻、英子。夫婦の子どもである彰宏、和浩、まなみ。そして孤児という立場の圭人、飛鳥、由利。
五人が雄輔に続き祈りを捧げ、間も無く楽しい夕飯が始まった。

飛鳥と圭人は、年は10程離れているが兄弟だ。
由利・翔は血の繋がりはないが、同い年ということでよくつるんでいる。

島崎家の両親・兄弟とも人柄は穏やかで、決して孤児院の子ども達を差別したり蔑んだりはしない。
子ども達は皆、仲の良い兄弟のように暮らしていた。







「圭人!だからあんま裏町の連中と付き合っちゃだめだって言っただろ!?」

「はー?何お前あっきーの癖に俺に説教するわけ?」

「あたたたたっけ、圭人ごめんな、説教じゃない、お願いなんだ」

「じゃあお願いっぽく可愛く言ってみろよ、けぇくんってな。したら考えてやる」

「お前……。ん、んふん、け、けぇくん、裏町の人達は危ないよ、けぇくんが怪我したりしたら嫌だから、お願いだからあの人達とは関わらないで……」

「ぎゃーっキッモ!お前そんなんやるか普通!?しかもいい年した大人が!?キモすぎんだろ!」

ギャハハハハー!と腹を抱え爆笑する圭人に、彰宏は顔をひきつらせ耐えた。
圭人が彰宏をからかい馬鹿にし笑うなど、いつものことだ。一々傷付いていてはメンタルがやられてしまう。

「とにかく、あんま裏町の連中とはつるむなよ。人身売買だ薬だって、最近特に物騒だからな……」

終戦から四半世紀たった今、綺麗に復興してきている街の裏側の闇は濃いものとなってきていた。ヤクザ者や良く分からない外国人マフィアが蔓延る裏街と呼ばれるドヤ街。表の光が強い程陰の色が濃いのは、当然といえば当然なのかもしれないが。
犯罪、回春、違法ドラッグ、賭博、詐欺。裏町はまだ、歩けば死体とも廃人ともつかない人間が転がっている、そんな場所だ。
圭人は恵まれた体格を有し頭も切れ、力も強い。しかしすれ違う者が誰しも振り替える程の美貌の持ち主だ、そんな圭人が最近裏町に出入りしている。家族同然で育ち、それも同い年とあって、彰宏は圭人を放ってはおけなかった。

圭人と彰宏は、ともに25歳になっていた。
二人とも180を超える長身、体格は同等。
彰宏は父親の雄輔に倣い、自分も故郷の街から少しだけ離れた土地に簡素ながら教会を構え、牧師として活動している。
神の教えを説くのも勿論だが、一番は孤児院の増設をしたかったから故の教会設立だった。
街にはまだまだ、親を持たない子どもたちが溢れている。
その子ども達に、どうしても救いの手を差し伸べたかった。
父を、母を尊敬している。何人もの子ども達を救い、まだまだ現役として活躍している両親を、そして孤児という立場ながら、立派に成長し社会人として復興に貢献している飛鳥や由利、翔のことを。

彰宏が違う街で両親と同じ活動をしたいと言った時、皆賛成し手伝いに尽力してくれた。
今彰宏と圭人が暮らしているこの小さいながらしっかりとした作りの木造の教会は、みなが協力してくれたから出来た建物だ。
彰宏の口下手ながら穏やかで面倒見の良い性格もあり、今では近所の人達が少しずつ通い、食料品等の差し入れをしてくれるまでになっている。
圭人はどちらかというと傲慢で奔放な性格なのだが、彰宏が独立するとなった際、それが当然と言わんばかりについてきた。
圭人は幼少から彰宏にまとわりつき泣かせつつも簡単に言えばべったり張り付いていたため、その流れに誰も疑問を抱かなかった程だ。

まあ由利と翔が「お前はいい加減彰宏から離れて自立しろ!」と怒ったが、彰宏を一人で出すよりは圭人が一緒の方が安心だという島崎夫妻に丸め込まれてしまっている。
圭人は島崎夫妻の前だけでは異常に外面が良かったし、多少の性格の難も帳消しにする程の器量の良さだったため、二人からすれば逆に安心したくらいだったのだろう。
肝心な部分で全く危機感が働かない彰宏よりも、圭人の方が信用されている程だ。

「俺今アッチに仕事で用があんだよ。仕方ねえだろ」

「えっお前やけに最近金持ってくると思ったら……危ない仕事だろそれ、駄目だろ」

「危なくないですーお前誰にモノ言ってんの?」

圭人に半眼で睨まれ、彰宏はお茶の入ったグラスを片手に溜め息を吐いた。
圭人なら確かに何をやっても無事に帰ってきそうだと思ってしまうあたり、自分も駄目だと思う。

「つかお前の方こそ、変な仕事やめろよな。俺が稼いでる額で十分でしょ?」

「う、俺のは仕事っていうか……」

逆に圭人に詰められ、彰宏は思わず口ごもる。
彰宏が最近している仕事というか、勝手に「押し掛け客」が来るだけなのだが、実は彰宏こそ裏町の人間と接点が出来てしまっていた。
以前、教会の前で倒れていた若い男を介抱したことがある。
酷い怪我を負いかなり衰弱していた男は、辛うじて意識がある状態ながら医者にかかることを頑なに拒否した。
医者にかかるにしても、高額な金がかかる。きっと金がないのだと察した彰宏は、傷の手当てや清潔の保持、栄養のある食事を提供してやるなど、その男を何日も献身的に介抱した。圭人はそんな行き倒れ捨ててこいとかなりとんでもない暴言を吐いていたが。
彰宏の努力が報われ、その男は全快に等しい状態になり教会を出ていった。
それから間も無く、その男がお礼にと大金と多量の食料品を持って教会を訪れた。
梶田恭平と名乗った男が実は裏町で強大な勢力を持つヤクザの頭だと知ったのも、医者にかかれない身分の連中の手当てという仕事が舞い込み始めたのも、その時だった。

「俺には裏町に出入りするなとか言っておいて、あっきぃは一番駄目な連中がお得意様じゃん」

「こ、断れないだろ……!?そこに怪我人がいたらよ。第一俺はお礼は別にいらないって言ってんのに……」

圭人に言い訳をしてしまう。
怪我や病気で苦しんでいる人を放ってはおけない。しかも、梶田はどうやら身内のいない若い人間を世話してやっているらしく、いくらヤクザとはいえ悪い人間には思えない。
梶田が彰宏に看病を依頼してくるのが行き倒れていた子どもだったり年寄りだったりということもあり、関係が切れないまま月日が流れてしまっていた。
その人達も実際はヤクザと無関係でたまたま梶田に拾ってもらったという場合が多く、お礼がてら彰宏の教会を訪ねてくることもある。
勿論、組の男衆の看病や傷の手当ての場合が多いが。

梶田は頭髪も短く清潔感があり、今時金持ちしか身に付けていないような上等なスーツを上背の高いスマートな体に着こなし、いつも何処か穏やかな笑みを浮かべているような男だった。
理知的な眼鏡の青年。何度会っても、何度会話をしても、穏やかな好青年としか思えない梶田に、彰宏は警戒心を抱ききれないでいる。

ここで梶田と行き合う一般人も、梶田をヤクザ者と知るものは少ないだろう。
また、梶田がお礼にといつも押し付けてくる金品に、教会を成り立たせるにあたって非常に助けられているというのも正直なところだ。

そんな痛いところを圭人にチクチクとやられ、彰宏はこれ以上は流石に圭人に説教を続けられなかった。
代わりとばかりに、ずっと相談したかったことを持ちかける。

「あのなあ圭人、ところでさ、そろそろ本格的に孤児院施設の建物を作ろうかと思ってるんだ。10人は入れるようにしてぇんだけど、間取りとかどうかな」

「お前10って結構な数だぞ、んなに見れんの?」

そんな建物作らせるんなら、それ相応のお礼しろよなーと面倒臭そうに言う圭人に、彰宏は思わず笑ってしまう。

「何笑ってんだ不細工」

「ごめんごめん」

小さい頃から、いつも一緒にいた圭人。
いくら想像を絶するような嫌がらせや苛めを受けても、結局は自分の隣に常にいる存在を頼もしく、そして嬉しく感じる。

こうして大家族から離れて暮らしていても寂しくないのも、夢のために頑張れているのも。
全部圭人のおかげなんだろうなと、彰宏は分かっていた。

 



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2014/09/15 01:18
from ( )


すごいいいです!
けいとがなんか優しい!
続きたのしみにしてます!

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