誰よりも何よりも!5
2014/07/02 01:05

やけに暑い、まず始めに感じたのは暑さだった。
腕の中に何かある、柔らかな心地好いものだ。
溝山はうっすらと目を開ける。
飛び込んできたのは修吾の寝顔だ。
混乱したまま条件反射的に布団をめくる。修吾の白い裸体が、目に飛び込んできた。

やってしまった!

「おわああああー!?」

「うう……?……あ、溝山さんおはようございます……今何時?」

「修吾おおおっお前お前っ俺はお前に………っ」

布団を跳ね退け身体を起こしたまま、溝山は混乱のうちに絶叫した。
続くように身体を起こした修吾は、眠たげに目を擦っている。
なんてことをっ俺昨夜は何してた?酔っ払ったまま趣味に手を出したのか!?そんなっあの日勢いで手を出して以来キスもしないで我慢してたのにっ
記憶を探るうちに、いや違うと漸く冷静な思考にたどり着く。
自分は夜勤明けで、ただ普通に寝ただけだ、と。

「うー……もう3時かあ……夕飯の買い出ししてこなくちゃ……」

固まる溝山を他所に、修吾はモソモソとベッドから抜け出す。
手は出していないと分かりきっている筈なのに、修吾がインナーを身につけているのを見て安堵してしまった。

「……溝山さん……」

「お、おお?」

「あ、ああ、あの……おはようの、ちゅ、チューとか……しないですか?」

「えっ」

自分から言い出しながら、修吾は下を向いて耳まで赤くしてしまった。
か、可愛いすぎるだろ……!何だコレ……!?

修吾がどれだけ勇気を振り絞っているか察知してしまい、溝山の寝起きの理性が盛大に揺すぶられる。

「ちゅ、チュー?な、なんで……」

「やっだって俺達、恋人同士だし……昨日ネットにも、いっぱいそういう画像あったから……」

思わず問い掛けた溝山に、修吾は俯いて身体を震わせた。緊張しているのかもしれない。
溝山は内心で唸った。したい、してもいいならしたい。本当はいつだってしたかった。
しかし修吾は中1だ。まだまだ子供だ。そういうことをしてはいけないと、今まで必死に自分に言い聞かせてきた。
でも今目前で幼い身体を震わせている修吾を見てしまうと、断る事は躊躇われた。
これだけ必死に言ってくれている修吾を拒否したのでは、修吾に恥をかかせることになる。
それをしてしまったのでは愛情ではなく、ただの自己満足ではないか。

俺も腹を括るべきだと、思った。
欲望がないまぜになった微妙な決心であるとしても。
この少年が世界で一番愛しい存在であるというのは、変えがたい事実であるのだから。

「修吾……」

もう言葉は不要だ。名前だけでいい。
俯く修吾の頬にそっと手をかけ、顔を上向かせる。
そこで漸く修吾の表情が見てとれた。顔を真っ赤にした修吾は、今にも泣きそうな、酷く不安そうな顔をしていた。

ごめんな、お前ばっかり泣きそうにさせちまって。
謝罪と愛情を載せるように、ゆっくりと顔を近付け口づける。
触れ合った唇の小ささと軟らかさに、胸が爆発しそうだ。

「ん……っ」

自分から誘ってきたのに驚いたように目を見開いた修吾は、直後に瞼をぎゅっと瞑った。
唇を合わせ、愛撫するように上下と軽く唇で食む。
至近距離で見詰める修吾の顔が、少しずつ赤く上気していくのが堪らない。
あの日勢いでしてしまった口づけではなく、今が正真正銘自分達のファーストキスだと痛感した。
修吾の本当のファーストキスは、あの変態に奪われてしまっているわけだが。
そう思うと、一気に悔しさと怒りが膨れあがる。それはあの男と、修吾を守ってやれなかった自分への憤りだ。
感情を抑えきれない。修吾をかき抱くように抱きしめ、小さな頭を固定し舌を侵入させる。

「んんう……っ?!」

驚いたように身体を跳ねさせた修吾は、しかし抵抗はしなかった。
それどころか、怖ず怖ずとではあるが、溝山の背に手を回し、縋るようにシャツを握りしめてくる。
久々に味わう修吾の柔らかく温かな口腔の粘膜に、溝山は夢中にさせられてしまった。
修吾の逃げ惑う舌を搦め捕り、吸い、逃がしては上顎を舐め上げ。
もう完全に修吾を貪っていた。腕の中で跳ねる薄い身体、徐々に上がっていく体温。

「はあっは……っ溝山さん……っ」

「修吾、好きだ、俺はお前しかいらねえ、愛してる……」

「溝山さん……!」

ベッドに押し倒し、潤む瞳を見詰め愛を告げる。
修吾は溝山の言葉に、目から涙を溢れさせきつく抱き着いてきた。
泣きじゃくり始めた修吾に覆いかぶさるように抱きしめ、溝山は唐突に察してしまった。
ああ俺、お前を不安にさせちまってたんだな、と。

「俺っ俺ごめんなさい……っ溝山さんが何にもしてこないから、本当は俺のこと、好きじゃないんじゃないかって、ごめんなさいい……っ」

「悪い、ごめんな、ごめん修吾……俺お前を大事にしたいって自分のことばっか考えて、お前の気持ち何も分かってなかったな、ごめんな……」

「ひっううう……っ溝山さん俺っ溝山さんとずっと一緒にいたいんです、いなくならないでっ俺とずっと、一生一緒にいて……っ」

「ああ、ずっと一緒だ。何があっても、俺は一生お前の傍にいるからな」

自分に縋るように抱きしめ泣く修吾の細い腕に、修吾の抱えている寂しさと不安が凝縮されているようで溝山も泣いてしまった。
一番愛すべき両親に先立たれてしまった修吾の胸を埋めてやれるのなら、自分はどうなってしまっても構わないのだと、改めて思う。

「溝山さん俺ね、あの日、溝山さんにエッチされそうになった時……本当は嬉しかったんだ……」

「え?」

くったりとした修吾を抱きかかえている溝山に、修吾がまた偉く唐突な話を切り出した。
俺そんなことしたか……?考え込み、驚愕の事態に思い至る。
修吾が言っているのは、あの溝山と瓜二つの変態の事だ。
何故か修吾の中では、あの人間(突然消えたので人間かどうかも微妙)と溝山は、同一のものとなっている。
赤の他人ではなく溝山に襲われたと思っているから、修吾は特に気にしていなかったのだ。
そんな馬鹿な……!と叫びたい気持ちをぐっと抑える。
それよりも嬉しかったというのは、どういう事なのか。

「最初は溝山さんとんでもなく怖いし乱暴だったけど……俺を抱きしめてキスして、俺に好きだって言ってくれた……俺、すっごく嬉しかったんだ、俺もずっと溝山さんが好きだったから……」

溝山の胸に頭を押し付けていた修吾が、見上げてくる。
溝山は驚きに固まっていた。修吾がずっと、俺を好きだった……?

「溝山さん、俺溝山さんと一緒にいたいから、溝山さんがしたいこと全部して欲しいよ。溝山さんに我慢とか、してほしくない」

言ってきた修吾の黒い瞳は、どこまでも澄んで美しかった。
真摯なまでの真剣さが、溝山の胸を貫く。
その貫かれた穴から溢れるのは、叫び出してしまいそうなほどの切なさと愛しさだった。

「……参ったな」

「え?」

「俺はもう、これ以上はねえってくらいお前に惚れてると思ってんのに、お前はまだまだこの気持ちに底がねえことを思い知らせてくれんだからよ。……なあ修吾、俺の全部、何もかももうお前のモンなんだ。だから……お前の全部、俺にくれよ。後悔させねえ、毎日一分一秒でも、お前を一番愛してるのは俺だって、実感させてやる」

何て臭いセリフだ、馬鹿か俺は。
顔を赤くしてしまった溝山だったが、恥ずかしいと思う気持ちはたちまち霧散してしまう。
修吾が本当に嬉しそうに、満面の笑みを見せてくれたからだ。


 



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