ぽこり、という聞きなれた水泡が上る音。薄暗い部屋の中、少女は羊水を模した水の中でただただ浮いていた。
ゆらりとコードが揺れ、口から泡が漏れる。開いたことのない目は、まぶたを通して僅かな光を感じていた。
「あの模倣アンドロイドは失敗作ですよ、ジル博士」
「うまくいくと思ったんだけどね。成功例が一件あるし、そんなに難しいことでもないんだから」
「それでも失敗作は失敗作でしょう。理論上可能でも成功することなんて希なんですから」
「君の言う事も一理ある。確かに“彼女"は失敗作だ」
聞きなれた声が何やら話しているのが聞こえた。水のせいでうまく聞き取れなかったが、どうもいいことを話しているわけではないようだ。それはなんとなく分かる。
何を話しているの? 問おうと思っても、口からは声の代わりに泡が漏れ出るばかりで、彼らの話をきちんと聞き、理解するのは無理そうだ。
もがいて注意を引こうにも、なぜだかうまく体が動いてくれない。コードが外れているわけでもないのに、腕や足がひどく重くて動かすことが出来ないのだ。
自分の体が動かない。そのことは酷く少女に恐怖を与えた。不具合ならば博士に直してもらわなければならない。少女は自分ではこの状態異常をどうすることも出来ないのだから。
博士。言葉を発しようとしても、口から溢れるのは泡ばかり。それでも白衣を来た青年は少女に気付いたようだった。
「スコラ、君は失敗作だ。もう君はいらない」
ーーだからもうそこにいなくていいよ。
その言葉のあとに少女の周りを満たしていた青色の水がどんどん抜かれていき、少女は床へとへたりこんだ。
水を含んだ髪がぺったりと顔に張り付いて気持ちが悪い。不快さを訴えようとした時、ぱちんと音がして少女の体に伸びていたコードが全て外された。
そしてその直後。彼女のへたりこんでいた床が開き、少女は深い深い“穴"へと吸い込まれていった。
「さようなら、僕の試作品」
青年は少女が落ちていくのを見届けてから部屋を後にした。部屋に残ったのは、水の入らないガラスの柱、ただそれだけだった。
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