朝、胸に違和感があるのに気付きTシャツの上からまさぐると、俺は見に覚えのない女の下着を身に付けていた。


「……何だコレ」


いや、コレが何なのかは知っている。ブラジャーだ。女が胸を包むのに使う、ブラジャー。何故そんなものを俺が付けているのか全く理解出来なかった。とりあえずTシャツを脱ぎ部屋の隅にある全身鏡の前に立つ。そこには分かりきっているがブラジャーを身に付けた俺がいた。


「……」


少しだけ考えたあと、何故俺がこんなものを付けていたのか直ぐに分かった。だって俺は女だ。女が胸を包むのに使う、ブラジャー。それを女である俺が使っていても何ら不思議じゃない。一体俺はどうして自分の性別を忘れてたんだ?女じゃないところで、男でもあるまいし。何だか今日は朝から変だ。気分直しにシャワーを浴びるか。


……

「剣城、おはよー」


シャワーを浴び適当に朝食を済ませ兄さんにおはようのメールを送った後、俺は学校へと向かう。途中、同級生の空野と会った。


「あ、剣城何か良い匂いがする。シャワー浴びてきた?」

「あ、あぁ…汗かいてたから」

「本当良い匂いー。シャンプーなに使ってるの?」

「えっと、確か――」

「剣城ー葵、おはよー」


空野との会話中、遮るように朝からハイテンションな松風が走ってきた。空野は返事をするが、俺は、出来ない。何故か松風の姿を見たとたん心臓が苦しくなった。


「剣城?どうしたの?」

「いや、…なんでもない」

「じゃあ、私先に行くね」

「え、何で…」

「やだなぁ、天馬と剣城の邪魔なんてしないわよ」


そう言うと空野は先を歩いていた友人に声を掛けていた。俺は若干気まずい思いをしながら隣を歩く松風を見やる。松風は、相も変わらず鼻歌混じりにご機嫌だ。


「…機嫌が良いな」

「ん?そうかなー。いつもと変わらないよ」

「……」

「あ、そうそう。信助今日休みだって。部活終わったら一緒に様子見に行かない?」

「あぁ」

「……」

「……なんだ?」

「剣城、何か今日変だよ」


松風はいきなり俺の手を掴むと足早に走り出した。急に風を受け、鞄を持つ手に力が入る。松風は誰もいない校舎裏へ俺を連れてくると、神妙な面持ちで見つめてきた。


「何かあった?」

「……いや、別になにもない」

「…彼氏の俺にも言えない?」


「彼氏」と言う言葉にさっきと同じくらい心臓が苦しくなる。そうだ、俺達は付き合っているんだ。松風は俺がマネージャーを務めるサッカー部の選手で。いつからか付き合い出して。空野が何故気を利かせて先へ行ったのかやっと分かった。やっぱり今日の俺は変だ。女であること、松風と付き合っていること、それを忘れるなんて。


「…まつかぜ」


松風を「彼氏」と認識した瞬間、奥から沸き上がる感情をぶつけるかのように俺は松風に抱き付く。あれ、俺松風より背が高かったような気がしたけどいつの間に同じくらいになったんだ?あぁ、そうか。松風が伸びたんだ。こいつは男だから、まだまだ伸びてあっという間に越されるんだろうな。


「剣城?」

「何でもないから。心配するな」

「…うん、分かった。でも何かあったらちゃんと俺に話してね?」

「あぁ」


首元に埋めていた顔を上げると自動的に松風の唇が俺のに重なる。柔らかい、温かい。俺は、松風が好きだ。女なのに不釣り合いな言葉を使う俺を松風は咎めたりしない。あまり感情を出さない俺に松風はいつも笑い掛ける。俺は、バカみたいに明るくてでも勿論弱い一面も持ってて、それでも周りを明るく照らす松風天馬が好きだ。


「…剣城…?」


唇が離れた瞬間、俺の視界はグニャリと歪み、でも口にあった生々しい感触は頭に残ったまま、遠くから俺を呼ぶ松風の声だけを耳にして目の前が真っ暗になった。―そして、俺は見慣れた天井を見て、今までのが全て夢だった事に気付く






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