(円堂監督と、きすしてしまった。)
 京介は唇を押さえながら、鏡を覗く。円堂とキスした後、円堂は我に返ったように謝りながら京介の部屋を出て行った。そして、最後にご丁寧に風邪薬など自分の部屋からもってきて、ポストにいれて来たのだからよっぽどパニックになっていたようである。だが、そんな円堂を見るのも、円堂の他の面を見れているようで嬉しかった。
 自分は男だ。女っぽくなければ、可愛くもない。つり上がった目つきから、何度怖いと言われたことか。それなのに円堂は京介を好きと言った、優しい手つきで抱きしめてくれた。今までなかった経験に体が震えたが、嫌だったのではない。
(兄さんに顔向けできない…)
 そう思いながらも明日の学校が楽しみで仕方ない京介は、ストラップを見つめて眠りについた。



 次の日になりいつもより早い時間に学校についた京介は、落ち着かない気持ちで席に座っている。あさのHRまであと20分もあるのだから随分早くきてしまったと思った。今日に限って朝練はなく、モヤモヤと感じたままである。トイレに立ったり、特に読まない教科書を広げたりとパタパタ動いていると段々人が集まってきた。そこでやっと冷静を取り戻す事ができる。このまま待てば、輝と狩屋が来るので雑談で頭を冷やせばいいだろう。
  そわそわしていると、扉が開いた。時間的に輝か、と期待を乗せて扉を見ると、そこにはいつもHRの始まる時間ギリギリにくる円堂が入ってきている。京介は即座に頭を下げた。いまさら遅いが寝たふりでもしようと、何故か逃げる方向にばかり頭がいく。顔が見たいと思っていたはずなのに、遠くにいる彼の顔が見れないのはあまりに滑稽だった。
(どうする、胸が、痛い、)
 どうするもこうするも、ここにいるしかできない京介はじかんがすぎる事を待つ。すると珍しく早くきた円堂を見兼ねた生徒が円堂に立ち寄った。

「あれ、先生早いね!」
「いやー、なんかそわそわしちゃってな! なんか、な!」
「へー変なのー!」

  朝の静かな教室で聞こえないはずがない。京介はそんな円堂の気持ちを知って、また胸がドキドキするだけだ。あの円堂が自分と同じように、相手の事を気にして今日まで胸を高鳴らせていたと思うと嬉しくなってくる。思わず盗み見しようと顔をあげると、しっかり目があってしまった。
 円堂は、照れ臭そうに京介に微笑む。

「かっこいい…」

  口に出さずにはいられなかった。
  幸い、小声で円堂も何を言ったのか聞こえなかったらしい。ちょっと困った顔をしているだけだ。京介は我に返って席を立った。このままここで円堂の顔を見ているなど無理だ、朝のHRはばっくれる事にする。
  ポケットに入っている財布を取り出し、自販機に向かった。飲みたいものなどないが、口実にはなる。急いで階段を駆け上がる生徒たちを横目で流し、予鈴すらも聞き流した。財布からお金を出すと、上に投げてみる。落ちてきたコインをキャッチして自販機に入れた。当たり前のようにボタンが光るのを見て、適当に押す。ミルクティーが出てきて、自分が押したものがやっと分かった。
(そろそろ、HR終わったか?)
  腕時計を見ながら首を鳴らす。円堂のHRは短く、特に用がなければ一分も掛からないのでそろそろ終わるはずだ。丁度今から教室に行けばいい頃だろうと京介がペットボトルの蓋を開けると、足音がした。急いでいるような足音を聞いていると、此方に来ているのが分かる。知らないやつだろうと、ミルクティーを一口飲みながらそちらを見やると、そこには円堂が居た。京介は呑んで居たものを吹きそうになる。それほど、驚愕していた。
  だが、そこはクールに、と含んだミルクティーをやっとの思いで飲み込む。口を拭きながら、円堂をまた見ると円堂も京介に気付いたようで、さっきよりも早く此方に向かってきた。逃げたかったが生憎後ろは外だ。上履きで出ることは叶わない。やや後ずさりしながらくるのを覚悟していると、円堂はにこにこ笑いながら京介の前に立った。

「剣城、おはよう。」

  京介は、ペットボトルを落としそうになる。いや、何か期待していたわけではないが、昨日の事があって尚、第一声がそれか。意識していた自分がバカらしくなってくる。京介はため息交じりに、答えた。

「ああ、おはようございます」
「朝いたのにどうしたんだ、HRでないとダメだろ。」
「喉が渇いて」
「そっか。あ、でも遅刻にしなかったから安心しろ! あと、一時間目移動教室だろ、早く支度して来い。遅れんなよ?」
「あー、はい」

  聞き流そう、とポケットに手を突っ込みながら適当に答えていると、円堂がいきなり静止する。次はなんだ、と顔を黙って待っていると肩に手を置かれた。そして、目をそらしながら顔を染める。

「て、言うのは口実で、本当はただ話したかったんだ。俺、昨日別れてからずっと会いたくて…剣城は、俺と会いたくなかったか、昨日のこと、忘れちゃったか?」

 まるで捨てられた子犬のように目をうるうるさせながら聞いてきた。そんなの京介も会いたかったに決まっているし、あんな出来事忘れるはずもない。だが、円堂と違って京介は口にするのがうまく無かった。
 どう言っていいのか分からず、グズグズと真っ赤になりながら立っていると、円堂はよくない方向に捉えたらしい。ゆっくりと肩から手を放し、苦笑いしながら言った。

「ごめん、やっぱり気持ち悪いよな。
いきなり、こんなことしてごめん。昨日のことは忘れてくれ。あ、授業遅れんなよ。」

  じゃあな、と京介の頭を撫でて、円堂は踵を返す。その後ろ姿を見て待って、と言いたいはずなのに言えない自分に腹が立った。どうしていいのか分からず、咄嗟に円堂の服を掴む。円堂はその反動で止まった。そして不思議そうな顔をして、振り返る。

「剣城?」
「………かった。」
「え?」
「俺もあんたと会いたかった。忘れてなんかいない、忘れられない、忘れたくもない。俺も」


「あんたが、好きだ。」


  そこまで言った時、遠くから話し声が聞こえた。そろそろ此処も人通りが多くなる時間で、そんな時間にこんな話をしていたと思うと恥ずかしくなる。早く此処から立ち去ろうと、それじゃあ、と切り出すと、円堂は京介の腕を掴んだ。なにか言われるかと、目を細めながら円堂の様子を伺うと、円堂はぷるぷると震えている。

「円堂、監督?」
「う、」
「う?」
「嬉しい!! おれは嬉しいぞ、剣城! 大好きだ!!」
「え、ちょ!」

  円堂はそういいながら京介に抱きつこうとした。京介は周りのこともあるので手を振り払い距離を置くが、円堂はそれでもめげずに何度も抱きつこうとする。

「やめてくださいよ、人が、来るからっ」
「いいんだよ、そんなの! 俺は嬉しいんだ」
「わかった、分かりましたから!」

 落ち着いて、と言うと円堂は深呼吸を始める。つくづく、変なひとだなと思いながらもそんなところが可愛く思えてきた。
(好きってこんな気持ちなのか)
  湧き出る愛しさにまだ戸惑いを感じるが、京介は確かに愛を感じている。冷静に考えている京介を見ながら、円堂は頬をかきながら笑った。

「両思い、だな。これは、付き合うってことでいいのか?」
「えっそうなりますか!」
「えっダメなのか!?」
「あ、いやダメってことは、」

  またほっておけない顔で此方を見るので、京介は言葉を濁す。すると、円堂はまた嬉しそうに微笑むのだ。

「じゃあこれからよろしくな、俺のハニー」


(よく、そんな臭いことが言えるな)
 そうおもいながら、頷いてしまった京介だった。






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