円堂がこちらを見ると、京介は胸が痛んだ。それを隠すように京介がめをそらすと、肩を叩かれる。そちらを見れば変わらない笑顔が輝く円堂がいた。見てはならぬと顔を背こうとするが、彼に吸い込まれるように胸の中に収まる自分がいる。そんな京介に円堂は照れたように微笑むのだ。

 そんな幸せな夢から起きた京介はため息をつきながら布団から出る。時刻は7時40分。携帯には、兄からのいってきますのメールがあった。丁寧にいってらっしゃいと送り、布団をきれいに畳む。ふらふらしながら洗面所に行くと、冷たい水を顔にかけた。そこで目の前の鏡を見て、もう一度ため息をつく。

「最悪だ」




「あれ、剣城も遅刻?」

 京介がドアの鍵を閉めていると、隣の隣のドアから出てきた天馬が元気よく声を掛けてきた。京介は眉間にしわをよせながら、天馬を見る。

「寝坊した。」
「俺もー! 秋ねえったら起こしてくれないだよ」
「自分で起きろよ」

 ポケットに手をいれながら京介は階段を降りた。天馬も同じテンポで階段を降りているのを聞きながら、自分の自転車を見る。今日もあれに乗り学校に行くのかと思うと、やや憂鬱であった。
 またため息をつきそうになるのを堪えていると後ろから笑ってるのが聞こえる。振り向くと、天馬がくすくす笑っているのが見えた。京介は顔を歪ませながら天馬を見る。

「なんだよ、気持ちわりい」
「気持ち悪いってひどいよ剣城! 今日は寝坊したけど、ついてるなって思ってただけだよ」
「なんで」
「剣城と会えたから」
「俺はついてない。朝からお前みたいなうるせー奴に会いたくなかった」
「えーひどいよー!」
「だからそれがうるせーんだよ!」

 低血圧で京介は面倒くさそうに言うと、天馬はちぇと言いながら話すのを止めた。怒っているのかと、京介の顔をのぞきこんだ。するときつい言葉とは裏腹に顔は可愛らしく、真っ赤に染め上がっている。

「剣城、もしかして照れてたの?」
「はぁあ!? 照れてねーよ、なんでそうなるんだっ。遅刻すんぞ、早く行けよ」
「往生際がわるいよ、そんな顔真っ赤にさせて。遅刻してもいいもーん」
「お前なあ!」
「なんだ、朝から仲が良いな二人とも! 元気なのはいいが遅刻すんなよ」

 自転車に乗り込みながら言い合っていると、後ろから声が聞こえた。その声に京介はびくり、と肩を震わせる。後ろを振り向けば夢に出てきた円堂であった。天馬は、円堂さん、と言うと円堂に立ち寄りなにやら話をしている。
 京介は、というと動かないより動けないに近かった。すでに赤い顔は増すばかりで、円堂から視線をはずして自転車のペダルをこぐ。天馬の引き留める声が聞こえたが止まれるはずもなく、ただ猛スピードでいつも通る通学路をきった。



「あ、おはようございます、剣城くん!」
「よっ」

 学校につくと輝と狩屋が京介に挨拶をしてきたので、京介も返しながら席につく。狩屋は京介の前の席に移動してくると、ニヤニヤしながら京介を見た。

「今日朝練来なかったじゃん。なーに、剣城くん寝坊?」
「仕方ないだろ、嫌な夢から抜け出せなかったんだ」

 狩屋のからかったような言い方に、京介はムッとしながら言い返す。だがその本気に返したことが面白いらしく、狩屋はケタケタと笑いだした。
 輝はそんな狩屋を見ながら苦笑いして、京介を見ると首をかしげる。

「嫌な夢ってどんな夢だったんですか?」

 輝にとって京介は幾分か大人に見えるので、幽霊や虫などにうなされるとは思えなかったため、不思議げに聞いた。京介はぎくりとして言おうとするが、さすがに円堂に抱き締められて喜んでいたとは言えず言葉を選ぶ。すると狩屋は相変わらずなにやけ顔で、京介に言いはなった。

「剣城くんムッツリだからなあ、もしかして好きな人とどうこうしちゃうとか? いや、そりゃ嫌っていわないかー」
「狩屋くんやめてください、そんなわけないで…剣城くん?」

 あながち間違っていない狩屋の問いに、京介は真っ赤になってなにも答えられなくなる。その姿をみて狩屋と輝はえ、と一度固まった。

「なになに好きな子いたのー!? ちょ、何組だよー」
「す、好きな人となんて…アダルトですよ! でも気になります、どんな夢なんですか」

 当然の如く食い付く二人は赤くなったり青くなったり慌ただしく、京介のまわりを走り回る。京介は答えられなかった自分を呪った。
 京介は円堂を好きな人と例えられても違和感を感じず、逆に納得すらしてしまう。そんな自分がはずかして耳の熱さは直るはずもなく、そこがまた狩屋のからかい癖に火をつけた。止まらない質問責めに、京介は頭を抱える。

「おはよーう、SHRやるぞ」

 そんな時、前のドアが開かれた。円堂だ。円堂が来たことにより狩屋と輝が席に戻るので救われたが、実際どんな顔をして見ればいいかわからないので下を向く。心臓は高鳴るばかりで収まりを見せなかった。
 悪化すると、分かっているのに、前を見てしまう。
 目が、合った。

「狩屋…俺今日部活行かねえ」
「え? 今なんて…」




(ドキドキして苦しい、つらい、でも 嬉しい)



 こんな気持ち、嘘だといってくれ。






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