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 誰の事を惚れた腫れたなどと、俺はなかなか面白いものだと思っていた。他人を愛して、他人のために何をそんなに頑張るのか、果たしてそれが自分の幸せに繋がるものか。
 だが、どうだろう。いま、こいつを目の前にして柄にもなくドキドキしている自分が居るのだから困ったものだ。

「今日もいい汗かいたね!」
「ああ、ちゃんとふけよ。さめたら、風邪引くぜ」
「分かってるよ! 剣城は心配性だなあ。」

 お前相手だからだよ。
 無垢な笑顔で笑う松風に言ってやりたかったが、言えば空気が凍るので言わない事にする。ただでさえ自分でもこの感情にドン引いているのに、他の人に、引かれるのはごめんだ。俺は横目で松風を見ながら、ドリンクを飲む。
 いつから、好きだったかと聞かれれば回答に困った。いつだったかは、分からない。俺の毎日がいつの間にか、あいつで埋まっていたからだ。本当に可笑しな話なのに、このぬるま湯から抜け出せない自分がいた。
 そして、開き直ってしまっているのだから尚更たちが悪い。

「剣城もちゃんと拭きなよ。俺が拭いてあげようか。」
「気持ち悪いこと言うなよ。」

 松風の笑顔にやられそうになりつつ、手を振り払うと松風はいたずらに笑った。おいおい、今、もし付き合ってたら俺キスしてたぞ。なんて無防備なんだよ。
 天然はこれだから困ると考えながら、俺は松風の頭を乱す。なにするんだ、と怒る松風を他所に俺は熱い耳が気になった。まるで持久走をしたみたいに、胸が苦しくて、顔が熱い。最悪だ。

「剣城? どうしたの?」
「なんでもねえ」
「こっち向いてよ」
「いいから、先に行ってろ。」

 あからさまに、顔を隠しながらその場に立ちすくむ。松風は心配しているのか、何度か此方を気にしながらも先に部室へ戻って行った。
 その背中に見惚れてしまう俺は、本当に気持ちが悪い。
 でも、縫い付けられたように目が行ってしまうのは、俺のせいじゃない。あいつのせいだ。



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