拍手2
「つーるぎっ!」
後ろから声がしたと思って振り向こうと思えば、鈍い衝動を背中にうけて前にのめり込んだ。声からして、天馬であるのは分かるし、俺に抱き付くのも天馬くらいだからである。
痛めた背中を押さえながら後ろを見ると、天馬はにこにこしながらこちらを見ていた。
「なんだ」
「なんだよー、用がないと抱きついちゃだめなの?」
「抱きつく必要はないだろう」
俺の冷たい言葉に、天馬は瞳を潤わせる。本当に甘え上手なやつだと思いながら、もんくを言いつつも引き剥がしはしなかった。それを知ってか、天馬も嬉しそうに背中に張り付いたままである。
日常に天馬が居ることが、当たり前になってしまった、今、どうしようもない不安に駆られた。幸せの後に必ず来る終わり。ピリオドの点かない物語はない。だからと言ってうだうだ悩んでも、俺たちは一生居れるわけではなかった。長くても、高校で離れてしまう。一人ではなにも出来ないわけではない、兄さんが居ればどうだってできる。
だが、
「うふ、剣城変な顔!」
ぎゅうぎゅうと頬をつねりながら、天馬は笑った。背中にイタズラするだけではあきたらず、今度は顔まできたか。俺は一度頭にげんこつを入れてやると、天馬はいたいと顔を歪める。俺だって頬がひりひりしている、お互い様だ。
「好きだよ、剣城」
そうだ、お前がいなくなったら、俺はどうやって恋愛をすればいいんだ。お前を好きなこの恋心はどうすればいいんだ。
俺も、という言葉は飲み込む。言わなくとも天馬はわかっているはずだ。
ボールが風で揺れる。俺もお前も、泣きたい気持ちを胸に秘めながら、お互いの顔を見た。
「変な顔」