MERRY X'mas
 イルミネーションが夜道の暗闇に散らばり、光の花を咲かせているのを見てこんなものを見る日がくるとは、と剣城はいまさらながらに思った。もちろんイルミネーションなど一生に一回は見るものではあるし、いままでで見たことがないと言えば嘘になる。
 だが、剣城が思っているのはそのようなことではなかった。イルミネーションを目的に、並木道を歩くとは思っていなかったのである。自分は専ら、綺麗なものに興味はなかった。人混みに揉まれて、寒い外に出て出るほど好きなわけでもない。それなのに、来ているのは隣で嬉しそうに光を見る、松風のためだった。

「わー、すごいよ、剣城! 上の星かわいいー」
「ああ」
「えへへ、もって帰りたいね」
「いらねーだろ」
「あ! この並木道抜ければ、おっきなツリーがあるんだよ。がんばろ!」

 鼻を真っ赤にして、子供のようにはしゃぐ松風を見て、剣城は笑ったが隠すように上がった口をマフラーに沈めた。松風はあれやこれや、と寄り道するので、離れそうになる。
 迷子になられたら困る、と剣城は眉をひそめたが携帯もあるので大丈夫か、などと冷静に考えていた。実際、イルミネーションなど、剣城の目にはとどめていないのだ。

「あ、もしかして、剣城たのしくない?」

 ポケットに手を突っ込んだまま付いてくるだけの剣城に、松風は不安になったのか、剣城の横に並び申し訳なさそうに聞く。剣城は首をふった。
 自分の周りはこんなにキラキラと輝いたものがいっぱいあるのに、見えるのは、君だけで。

「幸せ」



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