剣城を甘やかしてる話

 松風は黙って剣城の後ろ姿を見ていた。剣城は時折こくん、こくんと首が前後に凭れる。きっと眠気があるのだろう。だが、今は円堂がフォーメーションについて説明をしているため、もし机に突っ伏したものなら音無が黙っていない。剣城はただ、がんばっていた。そして松風はその姿を斜め後ろから見て、笑いをこらえている。
 ついに、我慢できなくなったのか机に肘をつくと、手に頭を乗せて目を瞑り始めた。しかもばれないように髪で顔を隠れるようにしている。松風にはバレバレではあるが。
 剣城は見た目とは違い、真面目である。怒られるなどもってのほかなのだろう。眠りについたかと思うとすぐに起きて、周りの様子を伺い、ホワイトボードに書き足されていないか確認していて、なんだかゆっくり寝させてあげたいと松風は思った。
 すると前からプリントが配られる。配置と次の必殺技、試合についての説明だ。松風はプリントに目を通しながらも、剣城を横目で見る。このままでは起きてしまうでないかと、松風は少し苛立った。なぜこのタイミングで、プリントを配るのかとさえ思う。
 松風は剣城の分を置いてもらい、自分が剣城のかわりに後ろにまわそうと思い立ち上がろうとする。だが、それは立ち上がらなくていいようだった。松風の前の席に座る神童が剣城のプリントを受け取り、静かに剣城の前に置くと剣城のかわりに後ろへと回す。剣城の後ろの霧野もわかっていたように、プリントを受け取った。松風が驚きながら神童を見ると、神童は松風に微笑みかける。

「珍しいよな」

 神童は小声で言った。霧野も頷きながら、静かに笑う。松風もつられて、笑い返した。
 そしてそんな三人に気付いたのか、神童の前の三国と車田が後ろを振り向く。今にもどうしたんだ、なんて言い出しそうな顔をしていたので、松風と神童は慌てて剣城を指した。二人は目を合わせると、理解したようで苦笑いしながらまた前を向く。そんなやりとりを見ていた西園と速水は元々声は出していなかったがまた一段と黙り、倉間はぶつくさ文句をいいながらも声を出さないように気を使いながら、隣の浜野の口をふさいでいた。天城は気付いていないようが、三国がどうにか声を静まらせたようである。
 松風はそんな部員達がほほえましく思えて、音をたてないようにプリントを裏返しにした。説明が淡々と続く。あまりの静けさに、剣城は完全に寝入ってしまったようで、首は前へ倒れていた。
 そして円堂の説明が終わる。以上、と言ったあと、円堂はにっこりと笑った。

「さて、このあと練習だし、グランドに行くのだがこいつを起こしても怒らないか?」

 すべてお見通しかのように円堂はいう。皆が固まった瞬間、今までの空気の違いに気付いたのかその“こいつ”が起きた。
 剣城は瞬きをくりかえして、自分が一番注目を浴びていることも知らず、ハッと焦りながらプリントを見直している。そんな剣城を見て、皆自分のしていたことが恥ずかしくなったのかぞろぞろと席から立ち上がった。円堂は面白そうに笑いながら、音無は不思議そうに部員を見る。

 剣城もその列の後ろにつくなか、松風も恥ずかしそうにしながらも、頭の隅である童話を思い出した。


110902


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