剣城は松風のことをよく見てる。その視線に松風は答えて剣城を見るが、剣城はまるで今まで見ていなかったかのような素振りを見せたりした。けれど、そんなへたくそな演技は、松風にもすぐにわかってしまう。
 松風は自分が前から見られていたのは知っているが、その理由をわからないでいた。最初はただ睨まれる日々だが、今は悪意の籠った視線(というより殺気に近い視線)は感じないので良いとは思うが、こう、毎日見られては恥じらいも覚える。剣城は此方を見るだけで、話しかけようとはしなかった。それがややこしい。松風は剣城とは友達になりたいため、話しかけられれば受け答えはする気でいた。だが、近寄りもしないで、遠くにいては、近づくこともできない。
 ぐだぐだ考えることは松風の性には合わなかった。なんとかなるさ、が口癖な松風は剣城に話しかけることにする。

「剣城!」
「!」

 目の前から堂々と近寄り、話しかけたというのに剣城大袈裟なくらい肩を揺らした。松風も悪いことをしたような気になるが、それでも気になるので引き下がらない。剣城は腰に手をあてながら、松風を見返した。

「なんだよ」
「何か俺に言いたいことでもあるのかな、って」

 松風は言い方これであっているかな、と頭の隅っこで考えていると、どうやら意味は通じたらしい。剣城は言い返そうと口を開けるが、パクパクと動くだけで声は出てこなかった。
 松風がそれでも待っていると、剣城自分の腕で口元を隠す。そしてそのまま、松風に背中を向けてしまった。

「つる…」
「言いたいことなんてない」

 うそつき。
 松風は根拠もないのに、口を尖らせて誰にも聞こえない声で呟く。自分の目の前の男は、素直じゃないと思うが、それが彼なので仕方なく深くは聞かないことにした。

 一方、その素直でない彼は松風と話せて良かったと心の中でガッツポーズをしていたのは、誰も知らない話である。


110901


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