浜野と剣城
最近、一段とサッカーが楽しい。一年が入ってきて、面倒も一緒に入ってきたけど、それが片付いた今は楽しいサッカーが待っているだけだった。最初先輩の俺たちをボコボコにした上、オウンゴールまでしちゃったりした剣城だっておとなしく練習してたりする。まあ、ムカつくけど今さら噛みつくのも面倒だし、平和が一番だ。
俺は休憩と声がかかったと同時に、日陰になっている芝生に寝転ぶ。水も飲みたいと思うが、ここからベンチまでは離れていて到底行く気はしなかった。またプレーを始めるときにベンチへ立ち寄ればいいかと汗をふきながら考える。
すると、おれの近くに誰かが座った。近くといっても一メートル以上は離れているが、それも近く感じるほど周りには誰もいない。無意識に目を横に流して正体を見ると、そこには珍しい、剣城がいた。よほど疲れたのか息もあがっている。俺は気付かれないように、片目だけ開けて見た。
こんな日光の下で走り回っているというのに関わらず不健康そうな真っ白な肌が彼を包んでいる。そして小さな顔には、ゆらゆらと揺れる瞳が浮かんでいた。目線の先は。
「そんなに気になんの?」
剣城がびくり、と揺れた。きょろきょろと周りを見出したので俺が起き上がると、まるで、居たのか、という顔をする。失礼な、先に来たのは俺だ。
俺の質問に剣城は答えないで、ゆったりと流れる風を浴びる。ふと、気がついた。剣城が座っているところは日向だった。きっと俺がいるから日陰に来れないんだろう、申し訳なくなって俺は隣を二回叩いた。
「どうせ座るなら、日陰来ればいんじゃね?」
「いい」
「はは、敬語付けろっつの」
「…いいです」
言わされた感満載の憎たらしい言い方で言うと、剣城はよほど俺が嫌だったのか急に立ち上がる。だが、俺は分かっていた。ろくに休まず少し座っていきなり立てば、立ち眩みが起こることくらい。
予想通り、剣城の足元は安定しなかった。やや斜面じみた所なので、当然、剣城は前へ倒れそうになる。俺は瞬間、中腰になりながら剣城の腕に手を伸ばすと運良く届いた。そして引っ張ると、剣城は後ろに倒れ込む。前に行くよりは痛くないだろうし、頭は打っていないだろうが、尻は打ったようだ。
「大丈夫かー。ちゅーか、受け身くらい取りなって」
「っ、あんな一瞬じゃとれねーよ」
俺が心配して駆け寄ると、剣城は眉間にシワを寄せながら俺を睨む。あっれー、俺が助けたのにおかしくないかな。思ったけど、超痛そうに尻擦ってるし、かわいそうになってきて責めるのはやめた。
「まっ、いっか。今度から気を付けな」
もともと恩を着せた覚えもないし、俺がいるから日陰に入れないのだろうと思い、俺はすぐに立ち上がる。すると、剣城はバツの悪そうな顔をして、おい、とだけ呼んだ。
先輩におい、はないだろう、と思いながらも振り返ると、剣城は耳を紅くして下を向く。
「……した」
「へ?」
「あ、ありがとうございました」
そこまで言うと、もう限界、とでも言うかのように体育座りして顔を隠した。俺は固まってしまう。まさかお礼を言うような子だとは思わなかった。
「う、うん。どういたしまして?」
返事をどう返してわからないので、はてなを浮かべながら言う。なんだか情けない。剣城は顔を上げるつもりでもないので、俺は斜面を一気にかけ降りた。喉が乾いたので、ベンチに向かう。なぜか熱くなった体も、冷やしたかった。
ふと、あの暗い目が、いつか俺にも向けられればなとも思ってしまった。
俺は一瞬でも思った自分がばからしいと、いつものように腕を頭の後ろに組んだ。
110830
やや剣城が松風に片思い。浜野くん癒しすぎる。