雨の日は憂鬱だと思う。何故か知らないが、雨の日になると頭痛がした。
 雨で暗くなる空をみると、暗い気持ちになる。空を暗くしたのは間違いなく雨だ。それがいやになる、と言えば変になるだろうか。
 これから練習だと言うのに霧吹きのような細かい雫が何億と降り注いでいるのを見てうんざりした。だが俺は目をそらして、ユニフォームに着替えることにする。すると同じタイミングで松風が入ってきた。

「剣城、おはよう」
「…ああ」

 いきなり頭が痛くなり、ろくな返事ができないでいると、松風は心配そうにこちらに近付いてくる。そしておでこにまで手をあて始めたので、俺は手を振り払った。

「雨が降ると、偏頭痛がするんだよ。いつものことだ」

 ズキズキと痛む頭を押さえながら言うと、松風はにっこりと笑う。なにがおかしいんだ、こっちは真剣に苦しんでいるのに。まともに返事をしなきゃよかったと後悔をしていると松風は俺の手を掴んだ。なにかと思えば、祈るように手を合わせる。なにかの儀式のように思えるくらい、松風は真面目そのものだった。そんな松風の手を振り払うことができるはずもなく、俺も祈ることがないのに目を瞑った。
 すると、松風は飽きたのか先ほどの表情は消え、ケロリとしながら自分のロッカーに向かい着替えをはじめる。俺だけ取り残された気分で恥ずかしくなり、俺も急いでズボンに着替えた。靴下をはくと、松風が俺の肩を叩く。

「ねぇ剣城。外に出よう」

 痛いと言っているのに。腹を立てながら睨むと、松風は気にせずに俺の手を引っ張った。それでも俺は譲らない。動かないように必死だった。
 松風は俺の態度に呆れてため息をつきながら、指をさして言う。

「大丈夫だよ。頭痛はなおる、絶対に」

 そして俺に指した指を、まるで魔法使いのようにくるりと一回転させた。俺も目で追うが、何もならない。強いて言えば、松風がうっとおしくて、頭痛が増した。
 だが油断した、松風は力を抜いた俺の手を引き、階段をかけ降りる。いやだいやだと駄々を捏ねる俺に、松風が笑いかけた。なにかと通った窓から外を見れば、そこには虹が広がっている。

「虹…」
「そう、すごいでしょ」
「…すげぇ」

 松風が出したわけではないのに、俺が素直に言えばどこか得意気だ。だが、俺も松風の馬鹿の影響か。さっきの祈りが効いたんじゃないか、とか一瞬頭に過ってしまった。まったく、馬鹿な話である。

「俺、晴れ男だから。隣に置いとけば頭痛で悩むことないよ!」
「寝言は寝て言え、あほ」

 松風の尻を蹴ると、松風は痛みのあまり前屈みになりながら尻を押さえるが俺には知ったこっちゃない。手を振り払い、そのかわり自分のポケットに手を突っ込みながら俺はもう一度虹を見た。

 あ、でも、頭痛はなおった。


110830



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