臆病な白竜と白竜を大好きな剣城

 男同士で付き合うなんて、世間でどう見られるかなど知っている。また、彼が重く罪悪感を感じてしまうことも。

「俺は剣城と一緒になれて、幸せだと思ってる」

 白竜は一ミリも迷いのない眼差しで言った。だがそれを責めるように冷たい風が吹いてきて、剣城がマフラーに顔を埋める。街灯が灯り照らすベンチに座り、白竜が剣城の方へ少し詰めた。剣城は黙ったままである。手を繋ぎたい、これはどれだけのひどい我儘なのだろうと思う、傷つくのは剣城だ。
 二人が付き合ったのは、一週間前である。剣城は白竜が付き合ってくれと言えば、戸惑うように眉間にシワを寄せて間をおいた後すぐにオーケーの返事を言ってくれた。剣城に限って好きでない相手とは付き合わないと思う、だが根は真面目の剣城の事。告白されたときも、世間体を考えていたのだろう。常識を破ってでも付き合ってくれたのは嬉しい、それでも、白竜は何処か引っかかった。
 本音、今の返事も聞けなかったのは、結構こたえる。今の返事を聞けたら触れようとしていた手は、いく宛もなく夜風で冷やされた。触れられないのならば、この距離はもどかしい。白竜は立ち上がると、剣城を見た。

「そろそろ家へ送る。家の人も心配するだろう」
「いや、自分で帰れる。大丈夫だ」
「遠慮するな」

 白竜が剣城の前に立てば、剣城も身支度を始める。白竜は先に斜面の芝生を踏み鳴らした。19時と言えど、こんな寒い夜空にわざわざ出るものは少ないだろう。そのため朝は騒々しく人が行き交う河原岸は、登って見ても人っ子一人いなかった。
 剣城が遅れて歩いてくるのを確認して、白竜はゆるゆると歩き出す。剣城が小走りで自分の隣に並んできて、少し、頬が緩んだ。

「なんかこう、照れるな」
「今さらだな、二人で歩くなんていつもやってんだろ?」
「いつもは人が周りにいるけど、今は俺らしかいないだろう。それが世界に二人だけみたいでな」

 剣城は目を丸くすると、舌打ちしながら早歩きを始める。白竜は焦って剣城に合わせようとするが、引き離そうとする悪質な足取りに白竜は剣城の背中を見るしかなかった。

「剣城?」
「うるせー」
「な、なんだと! 話のとちゅ…」
「その話がいけないんだ、なに恥ずかしいこと言ってんだよお前は」

 さすがに白竜は悲しくなって反論すれば、耳があかくなった剣城が振り向いて顔を見せる。白竜もそんな顔を見ては、照れないわけにはいかなかった。
 反応してなかったわけではない。恥ずかしくて、返せなかったのだろう。そう思うと白竜は剣城が愛しくて堪らなくなった。

 本当に、二人だけになれれば良いのに。そうしたらこの気持ちが誰からも否定されることなどないのに。

「本音は言わないと気が済まない主義でな。すまない」
「ふん…まあ、お前がそういう奴だって分かってる」
「そうか」

 笑いながら白竜は遅くなった剣城の隣を歩く。そうだ、なにを不安になっていたのだろう。彼は俺が好きで、俺も彼が好きなのだ。これ以外に幸福はいるのだろうか。
 冷えて澄み渡る夜空を見上げる。星が瞬く様を見て、自分はこの世界に立って居るんだなと思った。そう二人だけではなく、偏見の、そして時折楽しみもある世界。

「やはり、お前と一緒に…いや。会えて幸せだ、これからもずっと隣に居てくれ」

 白竜がまた態度が悪くなるのだろうか、と思いながらも、口に出さずにはいられなかった言葉を白い息と共に吐くと、剣城はまたマフラーに顔を埋める。見返りを求めず、その姿を見て白竜は小さく笑った。

「寒いな、帰り何か買っていく…」
「それはこっちの台詞だ」
「え、」

 白竜は、自分の手に何か触れるのがわかる。それは紛れもなく剣城の掌だった。想像していたものよりはしっかりして、そして冷たく、愛しくなるもので。
 世間の目を気にしていたのは、はたしてどっちだったのか。隣の剣城は周りを気にすることをなく、手を繋ぎながら白竜だけを見ていた。白竜は自分を恥じる。だが、その時、剣城は照れ臭そうに笑った。少し高い背の彼が幼げに見える。

「白竜、俺もお前と一緒になれて、幸せだ。」

 神様、懺悔の時間はあとでいいでしょうか。今はただこのいとおしい恋人を見ていたいのです。
 剣城の言葉が終わった時、白竜は剣城を腕の中にいれていた。暖かい体温の中、感じるのはもう冷たい風ではない。お互いの熱だけだった。







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