初々しい三国と剣城

 まだかまだかと待つ剣城は、足を組んだり、足の先で土をなぞったりしていた。校門をくぐっていく生徒達は、サッカーで有名な剣城だと物珍しそうに見ている。その視線から逃げたいが、相手がこの場を待ち合わせ場所に選んだのだから何とも言えなかった。

「悪い、待たせたな」

 地面に注目していた剣城は、待っていた声をかけられ急いで顔をあげる。組んでいた足もぴんと立てて畏まった状態で相手を見ると、相手は変わりように笑った。剣城は笑われたことに照れながら、相手をにらんだ。

「なんで笑ってんすか。三国先輩」
「いや、そんな畏まんなくても、と思ってな。」

 くすくす笑う三国は、剣城をみて笑いを止めて、ごめんごめんと言う。剣城はそんな反省していない三国へなにも言わずに歩き出すと、三国は黙って剣城についていった。昨日付き合ったばかりの二人は、ぎこちなさなどはない。いや、剣城はないと言えば嘘になるだろうが、二人の間には不自然さはなかった。
 明日一緒に帰らないか、と言い出したのは三国である。結ばれた瞬間、三国は当たり前のようにいった。剣城にとって付き合ったことだけで頭がいっぱいだったのだが、好きな人と帰れるのはこの上なく幸せである。もちろん断ることはなく、剣城はうなずいた。
 余裕ぶっこいてる、この人が憎たらしい。剣城は思いながら、置いてきたはずなのにあっという間に隣に並んだ三国を見て悔しく思う。だが三国は剣城がそんなこと考えていることなど露知らず、今日のサッカーについて話始めた。二つも年上なので慣れているのも仕方がないが、それが他の人を連想させていやで。付き合っていた人がいたかと考えて勝手に落ち込み、そして悲しんだ。
 そんな気を落としている剣城に、三国は苦笑いしながら見つめている。なにで気を落としているかは知らないが、自分と一緒の時に悲しまれるのは居心地が悪かった。さてどうするか、三国は剣城の気分をあげるために周りを見渡す。ちょうど商店街が見えて、剣城のかばんをつかんだ。

「少し寄り道していかないか」
「いいですけど」
「よし、じゃあおいで」

 優しく子供に言い聞かせるように言って、三国は剣城のかばんから手を離して次は手首を掴む。剣城は驚いて後退りしそうになったが、三国が自然に掴むのでなにもできなくなった。
 夕方の商店街は、夕飯の材料を買う主婦や学校帰りの学生たちで賑わっている。そんななか、三国はするりと抜けて、アイスキャンディーの売り場まで来た。今日は日照りは強いが風はないので、ブレザーも脱ぎたくなるほどの暑さである。時期が早いと思っていたアイスも、今日だけはよりおいしそうに見えた。簡単に離された手首は、まだ熱は残っていて、剣城は片方の手で触られた部分を撫でる。女々しいが、脳裏に焼き付くほど嬉しかった。

「ほら、剣城」

 渡されたソーダのアイスは、青が綺麗に映えている。剣城はお礼をいいながら受けとると、三国は嬉しそうに歩き出した。剣城の機嫌が直ったのを見て、三国はアイスを一口食べる。
 河原まで来ると、三国はもう食べ終わっていたが、剣城はまだ食べきれてはいなかった。棒から伝う溶けたアイスの液が剣城の手に付くのを見て、三国はティッシュを出して拭き出す。

「食べるの下手だな」

 母親のような世話焼きをされて、剣城は嬉しそうに顔を綻ばせた。そして、そんな三国を見つめる。三国はそんな熱烈な視線を感じて、剣城の手から顔をあげると剣城は焦る素振りさえ見せず見続けたままだ。

「そんなに見つめらると、さすがに照れるんだが」

 本当に照れているのだろう、頬をかきながら三国は視線をそらした。じわじわと浮かぶ感情が喉から出るのがわかったが、止めることはなかった。

「好きです」

 三国の手を掴みながら、剣城ははっきりとした声で言う。人通りが少ないわけでもないこの場で、なにをいきなり言い出してしまったのか。剣城は自分を責めたくなったが、一度したら引き返せない。驚いた三国に、付け足すようにいった。

「あの、いや、すみません。口が勝手に」

 剣城は言った後に自分で自分を追い込んでいることに気付く。違うんです、と言いたいが本音なのでいちいち否定はしたくなかった。こんなときだけ、意識ははっきりしている。すると、三国は呆然としていたが、剣城がつかんでいた手を払った。ショックを受ける合間もなく、次は三国が剣城の手を掴む。

「好きだ、すごく、本当に」

 三国の目がきらりと光り、そのなかに写し出される剣城もまた瞳を光らせていた。お互いがお互いを、好きと目で語りかけているようである。
 剣城が笑うと、三国は自分の大袈裟に口を夫妻だ。

「ごめん、口が勝手に」

 あからさまな嘘に、剣城はまた笑いそうになり、そうですか、とそっけなく答える。そんな剣城の反応に自分で言っておきながら、三国は耳まで真っ赤にして少し前を歩いた。大人だと思っていたが、三国もまた、剣城と同じように告白には慣れてないようである。剣城はかわいいな、と思いながら、そして三国に言われたことを胸に繋ぎ止めながら、前をあるく二つ年上の彼氏を愛しそうにみた。


120524



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