朝起きると、隣に松風の顔があった。最初は驚いたが、冷静に昨日を思い出してみれば、俺が松風の家に泊まったことを思い出す。自分の家とは違った景色、匂い、空気。慣れないので緊張はするが、ここが松風の住んでいる所だと思うとそれだけで安心して、そんな場所にいれたことがどうしようもなく嬉しかった。
 無防備に寝ている、松風の頬を指でなぞると、松風はくすぐったそうに顔をそむける。俺はもう一度頬に触って、赤ちゃんの肌みたいに弾力のある頬を楽しんでいた。もし、松風が起きていたなら、こんなに触れることなど出来なかっただろう。俺は泊まって良かったと思う。昨日の晩御飯も美味しかったし、夜も楽しかった。松風のあほな顔を思い出すと、自然と笑えてくる。

「なに、笑ってんの」

 1人で笑っていると、松風が目をこすりながら俺の首に腕をかけてきた。いきなりのことなのでそのまま捕まってしまい、身動きが出来ない。自分から触れるのならまだ良いが、松風から触れられるのは恥ずかしかった。

「離れろ」
「先に触ってきたの、剣城でしょー」
「起きてたのか!」
「うふふー」

 騙された、と松風を見れば憎めない笑顔で俺を見ている。松風も俺が怒らないとしっているので、差し込む日差しに目を細めるだけで、俺から目をはなすことはなかった。
 学校や部活で見る松風とは違う顔に、胸がどうしようもなく締め付けられる。俺は見ていたらおかしくなりそうで、見ないように立ち上がった。

「もういい、起きるぞ」
「ううあと5分」
「だめだ、秋さんに起こしに越させるのは迷惑だろ。ほら立て」

 手を引っ張り立ち上がらせると、俺の方が力は強いので簡単には立ち上がる。秋さんがぱたぱたとスリッパで歩く音が聞こえて、いそいでドアを開けた。案の定秋さんは目の前にいていきなり出てきた俺に驚いていたが、すぐに笑顔をみせて、朝食だから早くきて、伝えるとすぐに去っていく。
 笑顔が松風に似ている、思いながら松風の元に戻った。松風はあいかわらず眠たそうに、あたまをぶらりぶらり揺らしている。支えなくては立ってられなさそうなので立ち寄り手を取れば、今度は自分が引き寄せられてしまった。咄嗟の出来事に声もでない。

「松風」
「ごめんごめん、でもちょっとジッとしてて」

 まるで悪気がうかがえない笑顔で言うと、松風は俺に命令してきた。するつもりもなかったが、無意識にしてしまうと、松風は俺の手を握る。そして、次は腰に腕をまわすと、痛いくらい抱き締められた。抱き締められるのは、心地よい。俺も抱き締め返せば、松風はおかしそうにわらった。

「これはただのハグじゃないの、剣城、分かってる?」

 なにが、言おうとすると衝撃に動けなくなる。松風の唇が俺の口に、微かに、触れ、キスをしたかどうか分からないくらいの距離で、俺を見つめていた。

「束縛のハグ。目移りしないでよ」

 余裕のあった松風が、一瞬だけ眉間にシワを寄せる。松風には申し訳ないが、俺はそんな松風の表情がすきだったりした。
 目移りなんかしない、俺は、いつだってお前を。
 言いたいが、言ってしまったら、そんな自分が女々しいと再確認させられるようで嫌である。そんな複雑な心境の俺はいつもは勘が鋭いのに、こういうときは読み取ってはくれない松風に、俺は少し腹を立てて理不尽なハグを一発かましてやった。


120125


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