優一兄さんと京介

「お友達とはどうなんだ」

 昼食を食べる俺の隣で自分の分を広げて、おにぎりを頬張る京介に問いかけた。京介も突然の質問に驚きながら、動きを止める。そして、答える気になったのか大きくおにぎりを噛み締めて、飲み込むと口を開いた。

「別に、普通だよ。」

 至って冷静に答えるもので、俺はそうか、としか返せなくなる。ついこのあいだまで、京介は孤独であった。俺の足ばかりを気にして、自分のことは二の次だ。俺を一番に置くのは、いまでも変わらないが、決定的に変わったものがある。
 彼には自分と一緒に歩むことのできる友達ができた。今の反応がまさにそうだ。そっけなく見せているが、普段の京介ならば否定しているはず。京介の言っている普通は、仲が良いという肯定にすぎないのだ。
 兄として、弟に信用の出来る友達ができたことは、嬉しくてたまらない。はじゃいだままに話し掛ければ、うざがられてしまうだろうか。いや、京介ならば優しく注意するだけで終わるだろう。

「そのおにぎり美味しい?」
「まぁまぁ。食う?」
「うん」

 俺の言葉に京介は持ったままおにぎりを差し出し、俺も気にせずに一口口に入れた。特にうま味を感じず、微妙な表情を浮かべると京介は苦笑いする。病院食よりはましだろ、なんて言ってきたことに、冗談も言えるようになったんだなと思った。
 たまにされる、友達との話で思うことがある。京介は甘え方を知らず、友達もその事をわかりきっているため甘やかせようとしていた。京介は気付いていないようだが、だいたい話を聞いていて思う。そしてつい最近では、やっと甘やかされたらしい。愛される弟を見て、なんとなく癒された。良い友達ができてよかったとは思う。けれど、お兄ちゃんには甘えられなくて、友達に甘えるとはどうなのだろう。

「妬けるな」

 俺の呟いた言葉に、何を勘違いしたのか、京介は次は兄さんにも美味しい物買ってくる、なんて言ってくれた。勘違いさせて申し訳ないが、本当のことを言って恥ずかしがられて一生甘えられなくなるのも勘弁なので、お礼を返す。
 どろどろに甘やかしてやりたいのに出来ない、この感情は息苦しくてたまらなかった。

「明日、試合なんだ」

 京介の呟きに、返事をしようとしたが、それ以上に京介の行動の方が早く、なによりも衝撃的である。俺の脇に手を通し、力を少しだけこめた。抱き締められたというより、触れられた、と言いたいほど京介の力は控えたものであったが、顔を埋めるのだけは力強い。顔を見られたくないんだと察した。けれどなぜこのような状態にあるのか、何を思って京介が自分の腹を包み込んだのかはわからない。

「京介?」
「明日の、試合、勝ちたいから」
「ああ、勝ってくれよ」
「だから」

 ちょっと力貸して。
 言ったあと、分かるか分からないかぐらいの力加減で俺を抱き締めた。そうしてすぐ、離れていく。指先が離れる最後まで、俺は動けなかった。
 京介はそろそろ、と椅子から立ち上がる。持ってきた袋などは、持って帰るのは日常化しているが、身なりと違って礼儀正しいのが可愛かった。

「じゃ、ゆっくり休んで。また明日も来るよ」

 そういいながら、京介は部屋を後にする。俺もありがとう、とだけ伝えた。当たり前のように、その言葉には返事は返ってこない。
 京介が俺を抱き締めたあと、京介は俺に背中しか見せなかった。顔も、手も、見せてはくれない。けれど首だけは丸出しなのが、すこしずぼらだった。真っ赤に染め上げられた首筋、そこで気付く。彼は試合前の緊張を解したいがために、俺にくっついてきたのだ。今さら気づいてしまい、もっと甘やかしてやれなかったことに後悔する。またしてくれたら、頭を撫でてやろう、背中を擦ってやろう、顔を解させてやろう。いろいろな甘やかし方を浮かべるなか、やはり嬉しい自分がいた。

「やっぱり甘えられると、嬉しいもんだな」

 強がりな君が、また甘えてくれることを待ってみる。




120106




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