俺たちは付き合っていると言えるんだろうか、と考え込む剣城はもう一時間分の授業を無駄にしていた。机の上に出ている教科書はでかでかと社会、と書いてあるが今授業しているのは数学である。それなのに剣城は知ったかぶった顔で、社会の教科書を開いたり閉じたりを繰り返して、目は教科書なんかには行かず教室内をさ迷っていた。
 剣城と、悩みのもと、松風は一緒に帰り、手を繋いで、キスをした仲である。一回ならばどうにか忘れることはできるが、それが1ヶ月前から続いていれば剣城も悩む他に術がなかった。
 俺たちは付き合っているのか。歩幅を合わせる度、手がもどかしく触れる度、唇を重ねようと切なげに見つめあう度、何度言おうとしたかわからない。それなのに言えないのには理由があった。松風に嫌われたくないと、思っているからだ。
 剣城は松風と微妙な関係になる前から、彼に想いを寄せていたのである。だからこそ、はっきりしてもらいたいのに、どうにも行動が出来ずにうじうじと考えることしか出来なかった。そんな自分に腹をたてたのだって、片手では数えられない。
 考えているうちに、ついには数学すら終わる。授業はもうなかった。あと残っているものは、部活だけである。チャイムが鳴って、HRも終わっていないのにかかわらず、教室の中へ滑り込むように松風がやって来た。そこで、やっと剣城は授業が終わったと気付く。それは松風が担任の教師から、追い出される三秒前の話だ。

 部活が終わってから、また二人は当たり前のように歩みを共に進めている。剣城は授業中に考えていたことがまだ残っていていつものように接することができないが、一方の松風は気にしていないようでさきほどの部活の話を一生懸命話していた。鈍感であるのはいつものことであるし、友達のように言葉を交わす松風を剣城は気に入っていたので自然と違和感も無くなっていった。
 だが、そんななか、松風の指が剣城の手を撫でるように触れる。剣城は気付き手を避けたが、逃がさないとでもいうかのように簡単に捕らえられ、手を繋いでいる状態になった。剣城も、さすがに、言おうとするが、また昨日と同じようにキスをされる。繰り返されるキスを受け止めていると、昨日とは違うことに気付いた。彼の舌が侵入してきている。突然の出来事に驚き、剣城は押すように離れた。

「なに。」

 松風が何故止めたんだ、とでも言いたいかのように低く声をあげる。剣城はそんな松風を怖く思い、謝ってしまいそうになったが言葉が違う気がして言わずに止まった。
 未だに不機嫌な松風を見て、剣城は息を飲む。なんて言えば伝わるだろうと、考えていた。だが松風は痺れを切らしたように、舌打ちをすると腕を組んだ。

「もういいや、剣城面倒くさい」

 松風は鞄を持ち直すと、地面を強く蹴って歩き出してしまう。着いてこい、ではない、バイバイの背中に剣城は目をつむった。
 なにの“もういい”なのかは分からない。だが、分かるのは毎日優しく迎えに来ていた松風はきっと嘘なのだと思う。

 剣城が期待して、願っていたものは、現実ではない。頭の中の二人は虚像にすぎないのだ。

111108


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