松風が欠伸をした。くあ、と微かな音を出しながら、口を大きく開ける。練習中だというのに、呑気に欠伸などをするとは。俺は向かい側の松風に目を向けると、松風は苦笑いしながら横に来た。

「最近寝不足なんだー」

 よっと、言いながらボールをあげて頭にのせる。落とさないようにバランスを取る松風は、寝不足と言う者がする動きではなかった。会った時は初心者に近かったのに、可愛いげがなくなったと思う。思う間にまた欠伸をするので、眠いのは嘘ではないのが分かった。
 蹴っていたボールを高く上げて、手に取る。俺は思った以上に近くにいる松風に、少し離れながらスポーツドリンクを飲んだ。

「不眠症か?」
「たぶんねー、なんでだろ。」

 唸りながら松風もボールを操るのを止めて、近くのベンチに座る。自主練習なので休むのは自由だが、俺はベンチには座らず松風の前に立った。松風は今にも寝てしまいそうな顔で、横たわりながらベンチに顔をつける。俺は焦りながら松風の腕を引っ張った。

「おい、寝るな」
「限界だよー、なんか今いきなり眠気が…あ」

 松風はそこまで言うと、何か思い付いたような声をあげる。そして松風を引っ張っている俺の手を逆に引いた。俺はそのままベンチに前屈みに突っ込みそうになるが、松風が体を動かせて俺を座らせる。そして松風は顔をあげて、顔を輝かせながら俺を揺さぶった。

「なんか、剣城と話してると眠くなる! 隣にいてよ!」

 ぐらぐら揺れる視界。俺からの返事がないと気付いた松風は、駄々をこねる子供のように俺のユニフォームをぐいぐいと引っ張ってくる。俺の方が限界だ、練習がしたい。しかも、俺と話してると眠くなるとは随分と失礼なやつだと思った。俺はベンチを立ちながら、松風に指をさす。

「失礼なこと言うな、お前は」

 俺が自然と頬を膨らませながら怒ると、松風はハテナマークを出しながら俺を見た。まさか松風は失礼だとも分かっていないのか、これは社会に出せない。俺は父親になった気分になった。
 あたふたする俺に、松風は言った意味が分かったのかは知らないが、不思議と笑い出す。俺が首を傾げれば、松風はひいひい言いながら笑い続けた。そこまで笑う要素が今の今まであっただろうか、笑うならお前の欠伸した顔の方がよっぽど酷い。松風は笑い終えると、腹を押さえながら言った。

「眠くなるってことは、お前といると安心するって意味だよ。気にしないでよ。」

 かわいいなぁ、と呟く松風は俺を馬鹿にしているように聞こえる。俺は余裕な松風にむかついて、脛を蹴ってやった。松風は脛を押さえながら、また笑う。ついに頭がおかしくなったか、と俺はボールを蹴り上げた。


110930



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -