「なあ剣城」
「あ?」
「お前可愛いね」

 俺がそういうと、剣城は顔を真っ赤にさせながらこちらを見た。何を言ってるんだお前、頭おかしいのか、って言いたい顔をしている。そんな顔もかわいいなと俺は思う。可愛い、と言ってもイコールで好きと繋がるわけではなかった。ただ、俺は可愛いと思うだけ。
 彼は俺を愛して止まない。俺が何をしても、俺が正義だと心のそこで思っている。無意識に忠誠な犬になったものだ。
 俺は何もかも知っている。そんな意地の悪い俺に、剣城は顔を歪めた。

「てめぇは、ずるい」
「んー、なにがぁ?」
「俺をからかってたのしいか」

 まあ、たしかに楽しい、と聞かれれば楽しい。だが、それ以上の目的があった。ただそれだけではつまらない。
 剣城が俺を軽蔑の目で見るたび、剣城からの愛が再確認できるからだ。俺は剣城をからかう、剣城はその言葉に反応する、それで俺は楽しむ、繰り返す俺を剣城は意地悪だと思う。この連鎖は剣城が俺を好きでなければ、始まらない。そうだ、始まるということは剣城が俺を好きな証拠なのだ。
 これで安心する俺は、子供じみていると思う。だが、これが俺の愛と言えば剣城は喜ぶだろう。

「じゃあ楽しいのかな」

 サッカーボールを足の甲で弄びながら言うと、剣城は悔しそうに俺の足を見た。ゆらゆらと落ちるか落ちないかギリギリに保たれるボールは、まるで今の剣城のようだと思う。剣城も分かっているのか、嫌そうに目をそらして彼には似合わない黄色のユニフォームを、シワができるまで握った。

「じゃあってなんだよ」
「なんとなく」

 剣城へと笑うと、彼は耳まで赤くさせて俺に背を向ける。俺の笑顔にはとても弱い、馬鹿なやつ。
 二人が同時にボールを蹴る音が、グラウンドに響いた。優しく響くその音色に、耳を傾ける。
 彼はサッカーを愛す俺に夢を見ている、俺もまた昔はサッカーに夢を抱いていた。だがどうだろう、今やサッカーは彼を繋ぎ止める手段でしかないのである。
 俺にとっての正義は、彼にあったときから行方を眩ました。

「剣城、お前は本当にかわいいよ」



110829




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