いつからだろう、剣城の目が俺だけを追っていると気付いたのは。剣城が俺のことを愛していると、自覚し、自惚れはじめたのは。

臆病者と卑怯者

「おはよう」
 目の前でスローペースで歩く剣城の肩を叩いて、俺は剣城の顔を見た。剣城は驚いていたが、すぐに表情を隠すと返事もせずに、はや歩きになって歩いていく。俺は慣れているので、剣城の歩幅に合わせた。
 グラウンドにつくと、剣城は学ランを脱ぎユニフォームに着替える。更衣室があるのにここで着替えをすませるのは何故か、きっと先輩たちのなかに入っていくのはきまずいのか。だからといって、木で隠れてはいるが外で着替えなくてもいいだろう。理解不能な剣城の隣、俺もつられて着替えた。
「ねむいねー」
 欠伸をしながら言うと、剣城も移りそうになったのか涙を目に浮かべて、欠伸を噛み締める。いつもどこかへ行ってしまう剣城は珍しく芝生の上へと座る俺の隣に来て、先輩たちが来るのを待つようだ。
「そんなのんきなこと言ってると、怪我するぞ」
「そうかな、そうだね。」
 心配してくれるところも、やっぱり剣城。俺は嬉しくなって、笑いそうになると、剣城は不機嫌な顔をして靴ひもを結びだす。
 この前も、俺が転んだ時に真っ先に、気付いたのは剣城だった。俺の怪我に気づいたのはさすがに驚く。あの時は一人でボールを遊んでいたようなもので人目につかないところでしていた。そこで上に上がったボールを追いかけようと、下も見ずに走ったら段差があり、情けなくずっこけてしまったのである。
 小さな怪我、というより隠れてしていた練習に近いのでまず、気付くよりも、見られていたことに驚いた。だが、妙に納得した。ああ、あの剣城だからと。
「ちょっとだけ、寝ちゃお」
「え、あ、おい」
 俺は芝生に寝転びながら背中を丸める。剣城は止めようとしたが、俺が完全に剣城に背中を向けたので、止めるのをやめた。触れそうになったはずの指さえ、引っ込めてしまう。
 剣城は奥ゆかしい。触れればいいのに触れない、もっと話せばいいのに話さなかった。だが、そこが俺のなかでは気になってしまう要因になる。
 剣城が俺に告白することなど、天地がひっくり返ってもないだろう。剣城の性格を分かりながらも、俺からは聞いてやらない。きっと、剣城から告白されたら俺は良い返事をしてしまうからだ。俺が了承すれば二人は付き合ってしまう、付き合ってしまえば剣城は幸せを知ることとなり、剣城のなかの俺の価値が下がってしまう。
 そうしてやるのも良い。だが、それよりも、剣城が俺に焦がれて、胸に夢を膨らませて、一生俺を考えればいいと思った。それならば俺は、剣城のなかに新しいまま生きれると思う。これからも剣城が俺に執着したままにするために、俺は自分の気持ちは絶対に隠し、剣城だけに気持ちをむき出しにさせようと決めた。


110926


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