誰かがみる松風と剣城

 彼はいつも、あの男を嫌いと言う。あの男は彼がそう呟くのを聞いて、彼を好きと言う。彼はその言葉を聞いて、安心したように頬を緩める。あの男はその顔が好きで、彼に愛を呟き続ける。

 きっとあの男の脳で彼を占める面積は、日に日に膨らませている。いつかは、箸の持ち方も右左も分からなくなって、彼の笑った顔やボールを蹴るときの足などだけが残るのではないかと思うほど、あの男のなかで居座るだろう。
 あの男はまだ、人間として未熟だ。年は若いし、考えることも砂場で遊ぶ子供のように浅はかである。そんな人間が考えることだ。今は彼を考えていても、年を重ねればいつかは現実に目覚め、彼を過去と謳うだろう。
 だが、彼はどうだろう。元々、彼のなかであの男は大きな存在のまま入ってきた。否、彼がこの世の現在(いま)を見れているのは、あの男のおかげであろう。彼はきっと、あの男を忘れることなど出来ないだろう。
 嗚呼、なんて青春は残酷なのだろうか。青春は人を惑わし、苦しめ、一生に残す。

「剣城、いい蹴りだ」

 俺はお前を一生、同情するだろう。なにも知らないで俺を見る剣城を、俺は憐れみの目で見た。


110918



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