三国と剣城

 お腹が減ったと、剣城は思った。これを最初に思ったのは、一時間前のことである。剣城はお腹をさすると、昼に食事を摂らなかったことを後悔した。
 昼は空腹よりも睡魔の方が勝り、思わず次の授業まで寝てしまい、購買にも行けず、今となって腹の虫が泣き出す。元々食は摂らない方であり空腹には慣れているが、今日は生憎朝食も食べていなかった。
 剣城は気を紛らわせようとボールを足で少しつつくが、なかなか集中出来ない。どうしよう、気分も悪くなってきた。剣城が本格的に悩ましくなってきたところで、剣城の肩が叩かれる。後ろを振り向くと、そこには三国がたっていた。

「…あんたか」
「あんたか、ってお前なぁ…。それより、なんか気分が悪そうだが?」

 三国は心配そうに剣城の顔を、覗き込みながら言う。人に気付かれたのは不覚だった。たしかに気分は悪いが、それが空腹からなんて情けない。剣城隠すために首を横に振った。
 だが、人一倍、周りをよく見ている三国がそんな嘘に騙されるはずもなく、剣城の細い腕を持つと、あっというまに円堂の許可を貰いフィールドから出る。手順が早すぎて、剣城は抵抗も出来なかった。フィールドの端で、三国は剣城を離すとさて、と振り返る。

「保健室にでもいくか?」
「大丈夫だ」
「無理はするな。試合を控えてるだろ? 剣城には頑張ってもらわないといけない」

 三国は剣城の顔色を見ると、やはり保健室にいくことを決めたのか、腕を優しく引っ張った。だが剣城は次こそ連れて行かれまいと力を込める。だが、力を込めたせいでお腹は唸りを上げた。周りは静かではないが、煩くもない。隣に居る三国には、お腹の音はばっちり耳に届いた。
 二人は顔を見合わせて、剣城は気まずそうに目をそらすが、三国は、というと怒ったように眉間にしわをよせる。

「…剣城、お前昼食は?」
「…食ってない」
「朝食は?」
「…食った」
「嘘ついたらしょうちしないぞ」
「…食ってない」

 剣城が正直に答えると、三国の怒りは増した。剣城は怒る意味がわからなかったが、とりあえす、面倒なことになったのだけはわかる。このまま戻れば、皆の前で文句を言われるのは目に見えているので、剣城は三国がなにか言うのを黙って待っていた。
 すると、三国は自分の前から去る。想像もしていなかった行動に、戸惑いながらも面倒事は避けられたので安心しながら胸を撫で下ろすと、三国はまた、剣城の目の前に現れた。
 三国は手を剣城につき出し、その手には弁当と思われる包みが持たれている。剣城はなんだ、と三国に目を向ければ、三国はため息をついた。

「本当は車田のために作ったんだが、見ての通り今日は休みだ。残ってしまってな。もし良かったら、食べてくれないか」
「は。」
「保冷剤も置いた。腐っていないし、味は保証するぞ」

 にこり、と笑う顔は先ほど怒っていた顔とは対照的に、とてもきれいだった。剣城はこのまま続けていてもサッカーに集中できないだけであるし、断る理由もないので、口も開かずに受けとる。手から離れる弁当箱に、三国は満足そうに微笑んだ。


110918



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -