電話が鳴った。
 普段ならばなるはずもないし、鳴ったとしても、兄さんからの着信だけなはずだ。だが、ディスプレイを見ると、兄さんからの着信ではなかった。画面には松風天馬と、書かれている。俺は戸惑う。今日の昼西園、松風、二人とメールアドレスは交換したが、こんなにすぐ電話がくるとは思っていなかったからだ。
 だが俺は驚きすぎて自分を忘れ、電源ボタンを押してしまい、折角来た着信を途絶えさせてしまう。すると画面には切断中の文字。俺はガックリとベッドへと突っ伏した。安心したのか、残念なのか、微妙な気持ちで携帯をいじくる。着信履歴は見直しても、やはり松風からだった。なにか用があったのだろうか、だとしたら悪いことをしたと思う。電話をかけてくれたというのに、勝手に意識して電話を切るなんて。反省しながらも、もう寝ようと思いベッドに膝たちしながらカーテンを閉めた。
 瞬間、携帯は鳴り響く。
 俺はベッドを揺らした。後ろを振り向き、布団に埋まった携帯を見ると、ここぞとばかりに青いランプを光らせている。初期設定のままの着信音は、切迫感を感じた。次は失敗しないように、通話ボタンを両親指で押さえ思いきって押す。耳に当てると、松風があ、と声をもらしたのが聞こえた。

「良かった、出た」

 松風の安堵した声がして、すぐに、俺は耳から電話を離す。松風の声が直接聞く声より低く、耳がかゆくなったからだ。
 俺は深呼吸しながら耳にまた当てて、ああ、とだけ言った。冷静なふりをしていたが、本当はいっぱいいっぱいで早く切りたいと思う。だがそんな俺とは反対に、松風は話を続けた。

「今日交換したし、試しにかけてみたんだけど…」
「そうか」
「嫌だった?」

 甘えたような声を出されて、いやなど言えるはずもない。電話越しに首をふり、違うと言おうとすれば言う前に松風は察したらしくありがとうと言うだけだった。
 今、笑っているのだろう。そう思うと、電話がもどかしく思えた。顔が見れないのが、なんだか寂しい。だが、そんなことも言えるはずがなく、会話は意味もなく続く。相手は松風なので話題が尽きることはないが、やはり話すたび願望は存在を膨らませた。今まで小さくしか空かなかった口が、大きく、開く。

「…松風」
「ん?」
「電話じゃ、顔が見えない。だから話すなら会って話がしたい」

 静かになった部屋で、ぽつりと言うと、今までペチャクチャ話していた松風の口が止まった。俺は松風の返事を待ってみる。返事などそっか、くらいだと分かっているけれど。
 すると、松風の方から息を吹き掛けるような声が聞こえた。不思議に思い聞いていると、松風は笑いだす。これは予想外だ。笑われるとは思っていなかったので、なんだか恥ずかしい。

「な、なんだ」
「ははは、俺の顔見たいの?」
「笑った顔が見れないのが惜しいな、っておもっただけだよ。おかしいか?」
「ふ、そっか。ううん、おかしくないよ。ありがとう、ふふ」

 まだ笑いが止まらないのか、所々笑っているがなんだか嬉しそうだ。バカにされているようだが、嬉しく思ってくれたなら良かった。俺は松風が笑い終えるのを、黙って待っていると、松風は気がすんだのか咳払いをする。

「じゃあそろそろ切ろっか。続きは明日、顔を見合わせてね。」

 妙に優しい声で言われ、俺は何故か照れてしまった。顔も、耳も、手も熱い。これが直接ならば、バレていただろう。
 良かったと思いながら返事を返して、今度こそ用途が間違っていない電源ボタンを押そうと思った。さて耳から離そうと、携帯を遠ざけようとすると松風がなにつぶやく。

「俺もお前の真っ赤な顔見たいからさ」

 なんでも見透かすように言う松風に、俺はまた、動揺で何度も電源ボタンを押してしまった。


110914/エンディングねた


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