円堂の目の先

 円堂は目の前に居る部員たちを見て、彼らの感じている事を勝手に考えていた。考えを誰に話すわけでもなく、答えを聞くわけでもない。謂わば暇潰しである。大半サッカーが頭を占めている、と円堂は考えた。自分も中学生の頃は神や宇宙人にサッカーを支配されそうになったときは、寝ても覚めてもサッカーのことばかりであったからだ。
 だが、この中にサッカーと一緒に他の事を考えている者を見つけた。その考え事とは恋愛である。円堂には純粋にサッカーを考えている者達が集まるなか、恋愛にうつつを抜かしている者を見つけるのは容易いことだった。彼はうまくやってると感じているようだが、事実は違う。彼が想いを寄せている相手も、彼の気持ちに気付いていたからだ。彼は隠すのが下手らしい。それから円堂は、分かりやすい彼を観察することが日課となった。
 彼はサッカーにも恋愛にも必死である。空回りしてどっちも手付かずな事は多々あったが、不器用な彼にしてはよくやってのけたと、円堂は監督らしく思った。彼が進歩する度、円堂は微笑ましく見ている。やはり自分の教え子が成長していくのは嬉しいのか、彼が笑みを浮かべるときは円堂は必ず近くに居て、見て、彼の感情を感じていた。
 数日後、円堂が見る限り、彼はやっと想い人に気持ちを伝えられたようである。だがその答えはよろしくなかったのか、彼のプレーは最悪だった。円堂は私情を挟む彼に容赦ない。彼を傷つけるようなことを言い、フィールドから出した。これで頭を冷やすと信じている。
 円堂は彼を考えないように指導に熱中した。彼だけに贔屓をしても、何の利益も無ければ、良いチームなど作れないからである。
 それなのに、どうだろう。円堂の指導は浅はかな物だった。まるで素人の出す指示である。違和感を覚えた部員たちは、サッカーをするのを止めた。円堂は様子に気付き、席に座る。熱中していると感じていたのは、狂言を発して情熱を発散していたからであると考えた。
 円堂は自分を客観的に見てみることにした。いつもしているように、勝手に自分の感情を考えてみたのである。そして、気が付いたのだ。自分こそ、フィールドを出るべきなのだと。

 いつのまにか彼に恋い焦がれた円堂は、彼以上にサッカーを見てなかった為、浮いた存在だったようだ。


110912



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