「わー、すごい雨ですねぇ。」
がたがたと揺れる窓を除きながら、虎丸は黙って座る豪炎寺に話しかけた。斜めになる木々を見つめ、自分もななめになる虎丸を見ながらそうだな、と豪炎寺は返す。そっけない答えだが虎丸はそれだけで満足しながら、豪炎寺の隣に座った。
マネージャーが選手達の体調を気にしての久しぶりの休息だ。豪炎寺だって一人でゆっくり休みたかっただろう。断られること承知で、虎丸は豪炎寺に一緒に居たいと伝えた。
答えは、意外にも頷かれる。確かにいままで、豪炎寺は虎丸の誘いをあからさまに断ったことはないが、こんなに気持ちよく頷かれたのははじめてである。
予想していなかった答えに、虎丸もどうすることもできないでいた。いつもの強気はおろか、先ほどからつまらない話題しかふれないでいるのだ。
「あ、あの豪炎寺さん!」
「どうした。」
呼んだ本人も、何を言えばいいかわかっていない。だが、なにか言わなければと思っていた。なにも言わないまま、ズボンを握って豪炎寺を見つめれば豪炎寺は優しく見返すだけだった。
(やっぱり最近の豪炎寺さん、おかしい)
虎丸はあまりにも優しすぎる顔から、目をそらす。耐えられなくなったのだ。最近、豪炎寺がおかしいのは、虎丸に対してだけ。冷たくなったならまだしも、やさしくなってしまった。良いことであるし、もんくは言えないけれど、虎丸は嬉しい反面、寂しく感じる。
(なにが寂しいのかわからない、大好きな豪炎寺さんに優しくされてこんなことを思うのは、俺、贅沢だ。)
いきなり変わってしまった彼に、戸惑いを隠せなかった。
「なんか、最近豪炎寺、おかしいです。」
虎丸は思いきって、いってみることにした。豪炎寺が優しいのは今にはじまったことではない。無口であるが、その中には優しさも含まれているからだ。
だが、あんなに優しさが変化するのであれば、豪炎寺にだって意識しているものがあるはずだ。虎丸は期待しながら豪炎寺を見た。
だが、豪炎寺は驚いた顔で虎丸を見るだけである。
「そう…か?」
「そっ、そうですよ! なにかあったんですか。」
「いや、特にないが」
首を傾げて見る豪炎寺に、虎丸は思わず脱力した。なにか理由があるのかと思いきや、本人はなにも気にしていないようだ。
豪炎寺は嘘がつけるような性格ではない。そのため、いままでのものは無意識だったものと感じられる。
(まっ、優しいなら優しいで嬉しいしいっか!)
気になっていた虎丸もここまでくるとそう思うしかなく、腕を組みながら考えた。豪炎寺はどうした? と優しく除きこんでくるので、頬を染めながら顔をそらす。
「別に!」
自分だけが豪炎寺を気にしているものだから、虎丸は無意識に少し拗ねながら言った。豪炎寺はまた優しく微笑む。虎丸は豪炎寺のその行動を、かっこいいと思ってしまい、なんだか余裕がある豪炎寺に腹をたてた。
仕返しとばかりに、虎丸は豪炎寺に抱きつく。抱きつきながら上を見ると、豪炎寺はいつもの無表情であった。
(豪炎寺さんは、やっぱり手強いなぁ)
「…いきなり、なんだ」
「へへっ、びっくりしました?」
「いや。」
豪炎寺のいつもの調子に、虎丸も調子を取り戻す。やっぱり今日一日は、豪炎寺に甘えようと、虎丸はまた豪炎寺に抱きつくのであった。
その時、彼が頬を染めたのを、虎丸はしらない。