鬼道はいつも俺の部屋に来て、今日の練習がどうだったとか、反省文を読むように言ってぐだぐだして帰る。最初はなにかと思ったが、その反省会的なものを鬼道がするのがおもしろいし、たまに意見を聞かれるのもいやではなかったから、雑誌を読みながらなんだかんだで聞いていた。
 鬼道は今日も、ご丁寧に二回ノックをして部屋に入ってきた。毎日見ているはずなのに、殺風景だな、と俺の部屋に感想をもらす。特に、今日は反省はないとおもう。まだ力は存分に出しきれてはいないが、失敗はなかった。まあ、俺には追い付けてはいなかったが。鬼道は、腕を組ながら口をへの字に曲げる。
「今日は特になかっと思うが、不動はどう思う」
「俺もねーな。ま、風丸が足を痛めていたのは、目についたけど」
 走る前の、一瞬、風丸は左足を気にしていた。別にあの程度なら悪化はしなさそうだし、本人が隠しているなら気にしてやることもない。だが、一応鬼道に言うことした。俺ではなにも言うことができない、でも鬼道なら代わりに同情でも心配もしてやれるからだ。鬼道は顎を手で押さえながら、俺をみた。
「そうだったのか、だから風丸の蹴るタイミングがいつもよりずれて」
「そういうことだな。ま、あの程度なら二三日で治ンだろ」
 言えばそうか、と悩ましくうなずく。その様子と鬼道の性格からして、こんなこと言っても、風丸に気にやるのぼんやり考えた。
 鬼道は考え方が似ているくせに、俺とは違うなにかを持っている。もちろん俺も鬼道とは違うものをもっているが、比べるものではなかった。そのなにか、とは育って来た環境で、また、違ってきたのだと思う。いまさら、考えても意味をもたないのだけれど。
「うん、そうだな」
 鬼道はなにか閃いたように俺を見てきた。一人で納得するとは、とんだ技術の持ち主である。俺が意見を言うほどのものではないと、雑誌を取り適当に広げれば、鬼道はにやり、と笑った。
「不動はよく、チームメイトを見ているな」
 その言葉と、笑った顔が鼻につく。それではまるで、俺がいつもみんなを気にしているようだ。俺はあくまで司令塔という役目を完璧にこなすために、試合にどう生かせるか考えるためにプレイヤーの状態を把握するのであって、そのひとり、人間の状態のためではない。正直、風丸がどうなろうと知ったこっちゃないわけなのに。鬼道はまるで、俺が優しい人間と言っているようで、それがなれなくて気持ちが悪かった。俺は雑誌を閉じて、鬼道をみる。
「ふん、当たり前だろ? 鬼道クンとは違って、自分だけで精一杯なわけじゃないんでね。しかも別に、サッカーに支障がでるか見ただけで風丸を気にしたわけじゃねェ」
「ああ、でも自分は風丸を気にしてやることができないから、わざわざ俺にいったんだろ?」
 最初の嫌みすらぶっ飛ばして、鬼道は俺を見返した。ゴーグルの奥の目は、どう俺を捉えているのかは見えやしないけど。
 けっきょく、お見通しかよ、と言い返せなくなった。こうやって、俺の考えを読むやつほど、うっとうしい者はいない。仲間のためだとか、一緒にサッカーやるだとか、なんて一番嫌いだ。サッカーは団体競技ではない、人を利用していかに自分が良いプレーを出来るかだ。そう、考えていたのに、こんなやつらのせいで、頭も酷い甘くなってしまったものだ。
「バーカ」
「ふ、そうか」
「なにわらってんだ」
「すまない」
 でもこうやって話してやらないこともない、と思ってしまうのも、やっぱりこいつらの変な影響のせいなわけで。これから生きていくなかの、悩みごとがひとつふえた。
俺にはこんなもん、似合ってねェんだよ




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