不意に起きてしまった午前2時。起きた理由はトイレと言うなんだか迷惑な理由だ。寝る前にトイレ行っとけば良かった、思いながらまだ寒い廊下を歩いた。昼間とは変わって、宿は静まり返っている。なんだか寂しい気がするし、なによりも怖かった。おばけ、とか信じてないけど、やっぱり怖くて。誰かについてきてもらいたかったけど、さすがに今は起こせない。明日も朝早くから練習だ。俺は電気を付けても薄暗い中、用を済ませて自分の部屋まで走ろうとした。だが、それは走らず終わる。

「立向居?」

 びくり、と自分でも驚きすぎなのではないかと思うくらい肩が揺れた。だがすぐに自分の名前を呼んだ人物が分かり、俺は胸を撫で下ろす。

「円堂さん」

 その人の名を呼びながら振り向くと、その人は安心したように笑った。どうやら円堂さんは喉が乾いたとかで、いまから食堂に飲み物を取りに行くのだそうだ。誰かにあった安心で、やっと自分も喉が乾いているのだとわかる。俺も一緒にお邪魔することにした。
 二人の足音がミシミシとなる廊下を歩き、やっと食堂につく。円堂さんは冷蔵庫を開けると、俺にミネラルウォーターが入ったペットボトルを渡してくれた。指が少しだけ当たり、熱を感じて、そっけなく取ってしまった。お礼を言って飲み、返すと円堂さんもなに食わぬ顔でその水を飲む。あ、間接キスだ。

「あ!」
「ん、どうした立向居。」
「いっ、いや!」

 男同士では間接キスなど当たり前だし、これを気にする俺も俺なのでなにも言わないことにした。円堂さんは不思議そうにこちらを向く。俺は手が触れただけで顔が染まりそうなのに、間接キスのことを考えると、頭が爆発しそうになるので一生懸命目をそらした。
 円堂さんはミネラルウォーターを戻すと、立ち上がりまた音を立てながら部屋に帰る。俺はいきなり来た武者震いに腕をさすりながら、円堂さんの後ろについた。円堂さん、意外と背中大きいな。俺より身長低いのに。また、尊敬するとこふえた。なんて呑気に考えていたら、いつの間にか部屋のまえだった。

「じゃーな、立向居」
「はい。」

 円堂さんは部屋のドアノブを持ちながら俺に笑いかける。暗いのに笑顔が分かるとは、円堂さんのひかりってすごい。あっさり、終わってしまった円堂さんとの時間に名残惜しく思いながら、俺も部屋に入った。 円堂さんの手、温かかったなあ。さっき触った指先がじんわりするのがわかる。円堂さんの手はいつも、いつもとってもあったかい。前に頭を撫でられたとき、グローブ越しから感じた熱は忘れられなかった。手が暖かい人は心がつめたいというけれど、それは違うとおもう。円堂さんは、優しさが体温に出てるんだ。って綱海さんに言ったら笑われたけど。
 さあ、寝よう。ベッドに腰を下ろした瞬間、ドアがいきなり開いた。さっきとは比べ物にならないくらい驚くと、また円堂さんだった。円堂さん驚かせるのうまいなぁ。思いながら、なんで来たんですか、とかまた顔が見れて嬉しいとか、言いたいことが溢れてくる。けれど円堂さんは口を開く暇も与えないくらいの早さで、大きく音を立てながら部屋に入ってきた。なんだと思えば、頬に手を添えられる。
 ああ、やっぱりあったかい。思ったときには、唇に柔らかい感触がした。え、これって

「え、えんどうさ、」
「わ、わすれものだ。おやすみ、立向居」

 もう一度。おでこにキスして。
 固まっている間に、円堂さんは逃げるように部屋から出てドアを閉めてしまった。驚きすぎてなにも言えない。あつい、あつい。

「円堂さんも、赤かったな。」

 あの一生懸命の顔。俺だけじゃないんだ、意識してるの。また円堂さんと触れたおでこと唇がじんじんといたい。
 ああ! やっぱり円堂さん、大好きだ!

 眠れない午前2時15分、それは大好きなひとのせい。






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