横から見上げて、豪炎寺さんの揺れる睫毛を眺める。風は少し寒くて、グランドに出る気はしなかったが、豪炎寺さんが先頭をきってグランドに走るのでつられていく。ウォーミングアップをして、動く豪炎寺さんは一段とかっこいい。俺は真似するように、彼を見るのだけれど、彼はこちらを向かないのだ。
 時々、豪炎寺さんの遠くを見る目が、何を映しているのかは分かっていた。そしてそれが、一番いやな人を映しているのも。自分の胸がもやもやと、何かを描くのが分かる。それが最悪なものだっていうのは、この前気付いた。

「豪炎寺さん」
「なんだ、虎丸」
「よそ見、しないでください」

 俺の言葉にすまない、と謝る豪炎寺さん。そんな顔が見たいわけじゃない、彼を苦しめるために我が儘を言っているわけではない。彼には俺に笑いかけてほしいのに。豪炎寺さんのその表情に自分がどんなに無力か、思い知らされる。
 豪炎寺さんは俺がなにか言えば、なんでも頷いてくれた。練習しようと言ったときだって、一緒に寝ようと言ったときだって、好きと、付き合って下さいといったときだって。けれどそれは豪炎寺さんの本心じゃない。本当はいつもなにかを考えていた。俺が言うたびに、一度口を開こうとして、でもただ頷くだけで。豪炎寺さんが年下の俺に弱いことを知っている。だから頷いてしまうのだ。なのに拒絶されるのが弱虫な俺は、それを分かって漬け込んでいるんだ。

 豪炎寺さんには、他に好きな人がいる。

「いくぞ! 虎丸!」

 俺が打ったボールを蹴るために、豪炎寺さんが宙に舞う。そうだ、豪炎寺さんはいつも遠い。
 蹴ったボールは狙った方向をもはるかに越えて、豪炎寺さんの場所にはいかなかった。豪炎寺さんの眉間にしわがよる。

「角度もタイミングもずれている、分かるな」
「わかってますよ」
「じゃあもう一度やるぞ」

 自分でも言い方がきつくなったことに気付いたのに、なぜか直せない。これも甘えのひとつなんだとおもう。ボールを置いて、上から押さえた。失敗なんて、したくない。豪炎寺さんはサッカーをしているときだけ、ちゃんと俺を見てくれる。
 手に汗が滲むのがわかる。いつも自信がある俺らしくない。頑張らなくては、と腰に力を入れた瞬間、

「豪炎寺!」

 鬼道さんが、豪炎寺さんを呼んだ。その声に、豪炎寺さんは、俺から背けるんだ。平然を装っているつもりかもしれないが、俺にはわかった。いつも俺には見せないかおを、鬼道さんには見せる。

「豪炎寺さん…」

 ほら、俺が呼んでも、こっち目を向けるだけ。心は俺に向いてない。光がない豪炎寺さんを見て、なにも言えない俺はやっぱり弱虫で、どこにも当てることのできない気持ちの代わりに、ボールを地面にねじ込んだ。





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