虎丸の、様子が変だなんてことは気づかなかった。シュートを受けたが弱くはなかったし、パスだって的確で、小柄な体を利用した虎丸らしいプレーが出来ている。けれどその様子は、サッカーには影響していないことに気づいた。
夕食を食べている時、虎丸は俯きながらため息をついたのだ。いつもの元気な態度ではない。俺はトレーを持って虎丸の隣に立った。
「隣、いいか?」
笑いながら問いかけると、虎丸はなにも言わずに頷いた。怖い顔をしてもくもくと食べる様は、どうも小学生には見えない。なに悩んでいるんだろうな、と考えていると、虎丸はこちらを向いた。俺はしまったと目をそらすが、虎丸はまだこちらを向いている。こんなに見られるときまずいものだ。俺は向きなおして虎丸を見れば、虎丸は静かに言った。
「俺に、なんか言いたいことでもあるんですか。」
冷たい、表情をする。こんな表情前にも見たことはあるけど、また一段と怖い。俺は頬をかきながら、向き合ってみた。
「なんか、あったのか? 相談してみろよ。」
言った、瞬間だった。本当に、すぐだ。虎丸はテーブルを叩きつけて、立ち上がった。その顔はひきつっていて、俺をにらんでいる。皆は驚き、視点が一気に集中した。虎丸は俺になにか言おうとして、顔をそらし食堂から出ていく。俺は放っておけずに虎丸の背中を追いかけた。豪炎寺や飛鷹も気にしていたようだが、俺一人でいくことにする。虎丸があんな顔をしたのはきっとおれのせいなんだと感じたからだ。
早歩きでどんどん俺との差をつける。差を縮めるために俺が走ると、足音で分かったのか虎丸は振り返った。鋭い目付きで俺をまたにらむ。
「円堂さんは、いいですよね」
「え?」
早口で言うと、また睨み付け、今度は叫ぶように言った。

「円堂さんはいいですよね! みんなから愛されて、みんなから慕われて。豪炎寺さんからあんなに気にされて! 俺がどんなに頑張ったってこっちを向いてくれないのに…ずるいです、あなたはずるい。」

大きな瞳からは、ぼろぼろと、ただ涙が落ちていく。俺に一生懸命伝えようとして口を大きく開きながら、顔をぐちゃぐちゃにさせておれを見る。
ああ、そんなこと考えていたのか。
必死な虎丸とは正反対に、俺は静かに思った。立ちながら泣きじゃくる虎丸に立ち寄り体に触れる。二歳しか変わらないのに子供独特の体温が高くて、なんだか可愛い。
「触らないで、ください」
「やだ。だったら泣き止めって」
「勝手に出てくるんです!」
「泣き止まないと、エースストライカーになれないぞ」
「ぅう、関係ないです!」
口は相変わらず達者だった。べらべら言う虎丸を抱き寄せて、落ち着くように背中をさすると、しゃっくりをしていたのに途中で止まる。あんなに抵抗していたのに、今では俺の肩に頭を乗せていた。
いまならいえるかな、俺は背中をぽんぽんと叩きながらしながら言う。

「実はな。お前が、元気ないって気付いたの、豪炎寺が教えてくれたからなんだ」

虎丸の俺のジャージを掴んでいる力が弱まった。きっと驚いているのかもしれない。情けない話だが、本当の話だった。昨日豪炎寺から最近虎丸が元気がないんだと相談された。俺はサッカーしか見ていなかったからそんな変化に気付かなかったし、キャプテン失格だな、とちょっとショックだった。だが虎丸に注目を置いてみてもなかなかわからない。むしろ元気があるんではないかと思った。だが、ふとした瞬間、虎丸は光がなくなる。このことをいっているんだと思った。こんなの、普通の人が気づくわけない。
虎丸が俺を不安そうにみるので、思い切り笑った。
「お前の些細な変化にも気付いたんだぜ? つまりさ、常に豪炎寺はお前を気にかけてるってことだよな。」
虎丸? 言えば、虎丸はまたじんわりと目に水を溜めた。
「知らないです、豪炎寺さんなんて」
「ははっ、虎丸は本当に豪炎寺のこと好きだな」
「…円堂さん、いい加減にしないと怒りますよ」
「もう怒ってんじゃん」
言えば虎丸は、子供らしい可愛い笑顔で笑った。ああ、やっぱお前は笑った方がいい。

(円堂さん、生意気言ってごめんなさい)
(別に気にすんな!)
(ふふ、円堂さんが好かれる意味、分かった気がします)
(え?)
(なんでもないです!)





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