最近ふざけた一年がやって来たのは知っている。今更サッカーを変えるなんて言いやがるんだから。俺は鼻で笑ってやった。フィフスセクターに逆らったら、高校なんて入れるわけない。三年の俺らからしたら、そんな話迷惑な話だ。
きっと三年は皆俺と同じ気持ちなんだと思った。とくに三国なんかはそうなんだと思い込む。
三国はいつも俺の味方だった、いつも俺の傍にいた、俺の、近くにいてくれた。どんな時だって。
例えば、俺が遅刻しそうな時、三国は怒った顔をしながらも隣にいて手を引っ張ってくれた。テストで焦ってる時も要点をまとめたプリントを作ってくれた。母親が弁当を作ってくれないから買い弁だった俺に、不健康だからと弁当をつくってきてくれた。俺の口の悪さで皆が離れていくなか、三国だけは俺の性格を理解してくれた。俺が怪我してサッカーを少しだけ休む時も、俺のために、泣いてくれた。
それなのに、三国。
「三国は、サッカーをやるのか。フィフスセクターに歯向かうってのかよ?」
俺は震えた手で三国の胸ぐらを掴む。本当はつかめるほどの力など無かった、三国が馬鹿げたことを言うから絶望し、力は無くなったのだ。気持ちに任せて、掴んだのである。三国は俺から顔を反らさずに、俺の手を優しく包み込んだ。
「俺はあいつらを信じてみたいんだ」
ああ、なんだよ、その顔は俺に見せていたはずだろ。なのになんで、ここにいない奴へ向いているんだ。
涙が出そうになるのを必死に耐えた。こんなことで泣くなんて俺らしくなかったからである。俺はいつも一人で判断してきた、全て。今まではその判断に、三国が勝手についてきただけだ。だから、こいつがいなくても俺に支障なんか出るはずない。
「勝手にしろ、お前には付き合えない」
そして、三国に背中を向けた。だが、そこではじめて、奴に背中を向けたことに気付く。三国は前でも後ろでもない、そうだ、いつも隣にいたんだ。
「ごめん、南沢」
どこかで追いかけて来てくれると信じていたようで、三国の言葉を聞いてショックを受けている自分がいる。
三国、またお前とサッカーしたいよ。
やっぱり抑えきれなかったのか、涙は溢れだした。隣には慰めてくれた君はいない。
120108