酷い南沢と南沢を忘れられない三国と三国を好きな車田

 南沢と三国が特別な関係だったのは、二人が言わなくとも分かっていた。そして意見が食い違ったせいか、二人が別れたことも。俺は三国を好きで、三年間、三国だけを思って過ごしてきた。南沢と三国が付き合ったのはもちろん悲しかった。
 それでも、三国が幸せなら良いと思ったのに、南沢は三国を悲しませるだけだ。我が儘ばかり言って、三国が言うことを聞くのを良いことにあれこれと無理難題を出す。そのため、南沢と居た三国は泣いてばかりだった。許せなかった、あんなに三国に愛されているのによく酷い扱いが出来るな、と。
 その事があったからか、別れてくれた時はとても安心したのである。嬉しいというよりも、もう三国が泣かなくていいと思うと、心から安堵した。だが三国は心は、まだ南沢にあると言う。忘れられないのは仕方がないし、俺がどうこう言うこともできなかった。時間が解決できると思っていた。
 だからこそ今回、月山国光に南沢がいたのは、絶望的だと思う。今だってトイレに行くと立った三国は、相手チームの控え室の前で扉を泣きそうな顔で見ていた。やはり、南沢に未練があるようである。俺が三国に話しかけようとすると、控え室の扉が開かれた。俺は話しかけるタイミングがなくなって俺は影にかくれる。覗いて見てみると、控え室から南沢が出てきた。三国の手が微かに揺れる。南沢は三国の姿を見て驚いてはいたかすぐ鼻で笑うと、バカにしたように三国を見た。

「…なんだ、三国、我慢できなくて会いに来ちゃったのか?」
「っ、挨拶しに来ただけだ」
「嘘つけよ、まだ俺を好きなくせに」

 南沢の腕が、三国の腰に絡み付く。三国は答えも出せないまま立ち尽くすだけだ。南沢がゆっくりと三国に顔を近付ける。
 俺は、と言うと隠れていたはずなのに無意識のうち、飛び出して三国の腕をつかんでいた。南沢も三国も、もちろん驚いていたが、自分が一番驚いている。証拠に、自分が次なにをすれば分からず、腕を離さないだけで、何も出来ていなかった。
 けれど、次に何をすればいいか、理解した。三国の腕は震えている。ここから連れ去ってしまえばいいのだ、と。
 俺は三国を引っ張りながら走り出した。南沢の悔しい顔だとか、三国が南沢を見て惜しむ顔だとか遅れて頭で浮かぶが、止まらずにはいられない。ただ、いまだけは三国をはなしたくないと思った。もう、後悔はしたくないのだ。
 どこまで走れば良い、俺は無我夢中に走る。三国の足がおぼつかなくなってきたのが見えて、やっと止まれる気がした。俺は止まって後ろを振り返る。三国は息を切らしながら、俺の胸を叩いた。

「なんで、止めたんだ!」

 三国がこんなに人を怒鳴り付けたのは初めて見る。勢いが強く、誰でも黙るだろう。しかも言われているのは俺だ。それだというのに、三国の潤む瞳にしか目がいかない。
 高い肩に手を乗せて、三国の目尻に浮かぶ涙をぬぐった。三国は俺の手を払う。それもそうだ、本当に触れて欲しいはずの相手から、俺は引き離したのだ。

「三国」
「好きなんだ、南沢を、好きで」
「うん」
「離れたくないんだよ!」

 俺の力ではどうにもならずに、三国はとうとう泣き出してしまう。俺は冷静に三国の隣にいるだけだった。今の三国を泣かせたのは、南沢か、それとも俺か。どちらにしろ、俺は三国の隣にいるべき人ではない。泣きたいのは俺だ、と子供じみたことを考えてしまいながら、俺は泣き止むのを待った。
 三国が泣き止んだら、俺は責められるのだろう。そして三国のことだから、すぐに忘れたふりをしてなかったことにする。ただの友達、また繰り返す。

「俺を好きになってくれよ。」

 そうすれば、お前は泣かずに済むのに。三国が驚いて俺を見たのと同時に、俺は口づけた。これが繋がればどれだけ幸せだろうか。一生繋がらないと分かっていても、俺は三国と繋がりたいのだ。

111008






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -