夜に差し掛かる、太陽が沈む教室で、南沢は机に座っていた。既に肌寒い気温に、南沢は学ランを羽織る。すると扉が開く音がした。そこには三国がいて、疲れた表情でやってくる。南沢は鞄を整理しながら、三国を見た。三国は申し訳なさそうにやってくる。

「待たせてごめんな」

 前で手を重ねながら頭をさげてくる三国に、南沢は笑いながら見直した。笑う南沢に戸惑う三国だが、南沢はポケットに手を入れながら出口に向かう。上履きが床にこすれて、耳にはりつくような音を出した。

「いいよ」
「…先生に手伝えって言われて、断れなくて」

 これだからお人好しは、と南沢はため息をつく。だが南沢も分かっていたので、気にせずに歩き出した。三国は南沢と二人のときは必ず、隣を歩きながら顔を見る。見とれている、と言った方が正確だろう。毎回南沢は三国の行動に気付いており、にやにやしながら三国に近づいた。

「おい、俺、そんなにかっこいいかよ」
「はあ…?」
「それともキスしたいとか?」
「はあ!? なに、言ってんだ」

 からかうように南沢が言えば、三国は距離を取る。南沢は予想以上の反応をとってくれた三国にけたけた、と笑いをあげた。三国は悔しそうに睨み付けて、南沢を警戒する。なかなか戻ってきてくれない三国の様子から見て、南沢はからかいすぎたらしい。悪い悪いと素直に謝りながら近寄ると、三国も仕方なく歩幅を合わせた。
 玄関につくと靴に履き替える。外に出ると、紫色の空が待っていた。三国は寒そうに、手を擦り合わせる。南沢は横目で見ながらも、その手からなにもなかったように目をそらした。心とは逆に冷たくなる耳に、南沢は小さく舌打ちする。
 付き合ってからは、サッカーのない放課後は二人で帰るのが日課になっていた。サッカー部には秘密で付き合う二人には、それくらいのことでしか恋人らしい時間は取れないからである。だが、三国も南沢も満足していた。二人いれば良いのだ。
 けれど、ひとつの欲が満たされれば、やはりもうひとつと欲しくなる。南沢はまたちらり、と目を動かせた。

「寒いな」
「ああ」
「マフラーいるかな」
「ああ」
「…あんまん食べたい」
「ああ」
「…話聞いてないだろ」

 どこか気の抜けた南沢の返事に、三国は南沢が同意しないような言葉を言うと、案の定引っ掛かる。三国が苦笑いしながら言うと、南沢はハッとなるが、時既に遅し。三国は腕を組ながら南沢の前に立った。

「なんか言いたいことあるんじゃないのか」

 いつも鈍感なくせにこういう時は鋭い。南沢は自分の失敗を悔いながら、頭をかいた。そして、聞こえないくらいの息の音を出して深呼吸する。三国の顔も見れないのか、下を向きながら口を開いた。

「…ぇ…か…よ」
「え?」
「手ぇ、貸せって言ってんの!」

 南沢の気持ちも知らずに聞き直す三国にむきになりながら、南沢は顔を上げて手を差し出す。その顔は寒さからか、それとも感情からか、真っ赤に染め上がっていた。三国も南沢からうつされたかのように、頬を染める。
 三国は恐る恐る前に出す南沢の手の平に触れた。三国の手は、置かれることはなく宙をさ迷う。南沢は痺れをきらして、食いつくように三国の手を掴んだ。三国は驚いて引こうとするが、離れることを許さない。南沢は掴んだ手はがっちりと握りしめ、自分の横に置くと顔も見ずに歩きだした。

「み、なみさわっ」
「何、手握るだけで照れてんだバカ」

 そう言いつつも、寒い気温とは反対に湿りを感じる手の平。いつもの三国ならば笑っていたが、それどころではない。手あせなど、どちらのかなんて、分からなかった。ただ分かるのは二人の体温だけである。その触れ合う体温を、南沢は噛み締めるように体に刻んだ。

110929





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