「…………」
すっかり黙り込んだマリクは、じっとこちらを見つめていた。
その眼には、先程まで浮かんでいた激情はなく――
「泣くな……」
ぽつり、と一言だけ漏らしたマリクの指がそっと私の涙を掬った。
「ありがと……」
かち合う視線。
黙ったまま細められたマリクの瞳を覗きこんでいたら、次第に頬に熱が生まれ、恥ずかしくなってそっと視線を外した。
「へへっ……
マリクがヤキモチ焼くなんて何だか嬉しいかも……!
しかも主人格とはいえ同じ自分自身なのにさ……!」
ふとお腹の底から沸き上がってきた気持ちに言葉を乗せると、自然と唇は笑みを形作っていた。
思わず漏らした軽口に、マリクは眉間に皺を寄せてこちらを睨む。
「貴様……」
「ん?」
「そうやって笑ってられるのも今のうちだよ……」
「え、」
マズイ、と思った時には時すでに遅く。
手首の拘束を解かれた時点で何故身体を起こさなかったのか、私は頭の隅でただ悔やんだのであった――
「っん……!!! やん……!! だめだってば……! まり、く……!!」
「クク……、ひどい事されても嫌じゃないって言ってたのは誰だったかねぇ……」
「ッ――それは……」
「嫌じゃねェなら何で拒むんだよ……
やっぱりお優しい主人格サマの方がいいってか……?」
「ちがうちがう!!!
ん……、やっ……」
「じゃあ何故だ……? 瑞香……
答えねェとまたその細っこい手首を縛り上げて、身動きとれないようにしてやるぜ……」
マリクに覆い被さられて唇を吸われ、シャツの下からじかに肌を撫で回されていく。
触れられたところからたちまち熱が生まれ、身体の中では締め付けられた心臓が甘い切なさを呼び起こしていた。
マリクがその気になったら、拒めないのなんて知ってる。
だからこそ――
「っあ……!
だ、って……んん……!
は、恥ずかしい、んだもん……!!!
自分がおかしくなっちゃうから……っ!!
そ、それに――」
「……それに?」
「………
怖い、んだもん……!!!
マリクが、じゃなくて――
マリクの近くにいると……、こうやって触れられると……
自分を抑えられなくなっちゃうから……っ!!!
あぁっ……! んっ、や……!!!」
顕わになった胸の突起をぺろりと舐め上げられ、生まれた電流が背筋を走り抜けていった。
「ククッ……、いまさら何言ってんだァ?
いつも最初のうちだけだろうが……そうやって大人しくしてんのは……
そうやってお行儀良くしてるのも悪くねえが……
ブッ飛んじまったアンタの方がオレは――」
「や……、何言ってんの……!?」
「そのままの意味だぜぇ……!!
ほら、こうすれば――瑞香!」
「ああぁっ――!!!」
マリクの言う通りかもしれない。
マリクの滾る分身を身体に打ち込まれ、深く抉られると頭の芯が痺れて意識が飛びそうになる。
腰を打ち付けられ、激しく身体を揺らされると、理性や羞恥心が霧散し、我を忘れてマリクだけを求めて淫らな声をあげてしまう――
「あっ、あぁっ……ん、マリクぅ……!!!」
「瑞香……っ、はっ……そうだ、そうやって、堪らなくヤラシイ顔で乱れてるのは……っ、
可愛いよ……っ、瑞香……!!」
「んっ、や……!!」
マリクに身体の奥を激しく突き上げられ、乱れた吐息で甘い言葉を囁かれると、思考という思考が全て巡らなくなり、マリクの存在と、身体を満たす熱以外何も考えられなくなってしまう。
「っは……っ、あっ、んん……っ!!
まり、く……!!!
すき……っ、好きだし……ッッ、気持ちい……
あっ、マリク……!! 好き……すき……っ!!!」
「っは……!!
瑞香……!!!」
揺れるマリクの口から切ない吐息が漏れたところで、マリクの唇によって呼吸を奪われ、吐息と共に絡まりあう舌が、熱を孕んで互いの心を溶かしていく――
「どこにも……っ、行くな……、瑞香……!!!!」
「っは、ま、マリクこそ……――
あっ、だめっ――ん、んんん――!!!!!!」
互いの唇を貪ったまま、マリクに舌を吸われたところで――きつく閉じた瞼の裏が弾け、快感が炸裂する――
のけ反る背中に思わず唇を逸らすと、溢れ出した烈しい声が漏れる――
と、同時にまた、唇を塞がれて、行き場を失った声ごと吸い付かれ――
身体の奥に、マリクの熱が溢れ出したのを感じた――――
「…………」
「何無言になってやがる……
ベッドの上でお遊戯は疲れたかぁ……? クク……」
「何言ってんだか……
はぁ……
なんか、順序が逆になっちゃったな……」
「あぁん?」
ベッドの上で気怠い身体を寄せ合いながら、マリクを見ずにボソリと零す。
「ちゃんと言いたかったんだ……」
くい、とマリクの方に首を向け、その眼を見据える。
「瑞香……」
「マリク……遅くなっちゃったけどさ……
誕生日、おめでとう……」
「…………」
マリクの眼が一瞬だけ揺らぎ、こちらを見つめ返す。
「闇人格はさ……まあ、主人格のマリクに辛いことがあったから生まれたわけだから、おめでとうっていうのもアレかもしれないけど……
でも……私は……!
気を悪くしたらゴメンね、でも……!
マリク……っ、
生まれてきてくれて……ありがとう……!
マリクに会えて……良かった……!」
性的なものとは違った意味で火照っていく頬を見られたくなくて、そっとマリクの胸に顔を埋めた。
「……、くだらねェな……」
長い沈黙のあと、マリクの腕が私の身体を包み、抱きしめながら耳元で囁いた声は――
心なしか震えていて、私は――
ゆっくり、マリクの背中に腕を回して抱きしめ返すと――
指で、その震える背中の彫りモノを、そっとなぞったのであった――――
余談。
「ケーキ、だとぉ……!?」
「なに驚いてるの……?
マリクあの時食べられなかったから、今度は二人で食べようと思って作ってみたんだよ……?
あ、プレゼントもあるからね!」
「…………」
呆けた表情のまま固まるマリクの目尻には、キラリとしたものが光っていた――
END
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bkm