愛の決闘の門を越えて5



マリクによって、闇のゲームに引きずり込まれた城之内だったが――

遊戯VS海馬の決闘が始まったあたりで、何とか意識を取り戻していた。


あまりにもあっさりとラーによって意識を飛ばされたために、何が起こったのかを把握出来ていない彼だったが――マリクに負けたことを知り、また、遊戯が現在海馬と闘っていることを聞くと、「こんなことしてる場合じゃねえっ!」とどこかのAAのようにダッと走り出し、タワーへ向かうのであった。


城之内は、実質的には決闘に勝っていた――
しかし、闇のゲームという事が災いして勝利を逃した。

普段は幸運な城之内も、そこだけは甚だ不運なのであった。


そして、とりあえず傷が塞がり動けるようになった獏良――もとい、バクラも動き出す――





――冗談じゃねえ。

このままオネンネしてられるかよ。

オレ様が何のためにこんな茶番に付き合ったと思ってんだ。

全ては、千年アイテムを手に入れるため――

千年タウクは既に遊戯の手に渡った。

なら、千年ロッドは――


『バクラ。何を考えている?』

「うるせえマリク! テメェは黙ってろ!」

「おやおやおや、仲間割れですかい? ひっひっひ」

「『またテメェ(君)か!!』」

「ハモった〜〜!!!!!!
びゃああああああ萌える〜〜!!!!!!」

「うるせえええ!!!!!!

ンないつぞやの某マクド●ルドのCMのテンション高いガキみてーな声で騒ぐんじゃねえええ!!!」

『バクラ……』

精神体となった主人格のマリクは、バクラのキャラ崩壊甚だしいツッコミに若干引いていた。


相変わらず神出鬼没のゆめは、そんな二人?をキラキラした瞳で見つめている。


「ったくてめえは何なんだよ……
闇のマリク様とやらはどうしたよ?
闇のゲームに水差すなんつーイカレた女は後にも先にもてめえだけだろうぜ……」

バクラは呆れ顔で肩を竦めた。


「闇マリクさまには逃げられました!!
っていうかそれよりも、そういう人を小馬鹿にしたようなバクラさまの態度、目茶苦茶萌えますよ!!

あっ、鼻血が……」

「うぜえんだよ〜!!」

バクラは眉間にシワを寄せて頭を抱えるしかなかった。


『君たちの仲間を通して、さっきの決闘を見ていたよ……
闇人格のヤツが勝って決勝に進んだようだね……
あいつは危険すぎる……! 早く何とかしないと……!!』

苦々しげに吐き捨てるマリクの横で、我に返ったバクラの眼が鋭く光る。

ゆめはそんなバクラの視線を見逃さなかった。


「バクラさま……まだ千年ロッドを狙ってますね?」

「!! あぁ?」

バクラのギラついた双眸がゆめを睨め付ける。

だがガンを飛ばせば飛ばすほど、ゆめはうっとりした瞳でバクラの眼を見つめ返してきて、耐え切れずバクラの方から視線を外してしまう有様なのであった。


ふと、考えこむような仕草を見せていたマリクが口を開く。

「バクラ……
お前が何をしようとしているかは考えたくないがまあこの際それは置いておこう……

だが――実を言えば、ファラオの記憶は美術館にある石板に秘められているんだ……
ファラオの魂――つまり遊戯が三枚の神のカードを集めた上でそれは明らかになるだろう……

千年アイテムもそうだがつまり、今お前が千年アイテムを集めたところで意味はないんだ……」

「!!!!!!!」

「おっと重大な秘密がサラっと明かされましたよ!! いよっ!! マリクさま!!」

「つまりこの戦いで遊戯が神のカードを三枚集めないと先に進まないってことさ。

何が言いたいかわかるか? バクラ――
ここは遊戯を勝たせるようにお前の力を使った方が得ってことさ」

「なんだと……?」

「いや、勝たせるって言い方は誤解があるな。
決闘のことは遊戯自身がどうにかするしかない……
遊戯が海馬に勝てるかはわからないが――そこは遊戯の戦いだから任せるしかない。

だがもし遊戯が決勝に進んだとして、闇人格のヤツと戦ったときに、ヤツがまた危険な闇の力を使ってきて……
もし遊戯が危険な状態になったらお前の千年リングの力を使って遊戯を助けるのさ」

「……なるほどな。
オレ様の力をね……
目的に近付くためには仕方ないと言いてえわけか――」

(チッ、最初から背中の彫りもんの秘密がわかってりゃ――オレ様もこんな回り道をせずに済んだってんだ……クソが……)

バクラは腕を組み、憮然とした表情であさっての方角を睨んだ。


「マリクさま……」

ゆめは神妙な面持ちで、どこか遠い目をしているマリクを見つめていた。


しかし、ふと思い出したようにパァッと明るい顔になり、輝きを放つ瞳をバクラに向ける。

「あ、あのっ!!
もし、裏方的な立ち位置が嫌なのであれば、わ、私と愛のでゅえる☆をしませんかっ!?

か、か、勝ったら相手の事を好きにして良いっていうルールで……」

「しねえ!! しねぇよ!?
オレ様が勝っても何の得もねーだろそれ!!
ふざけんじゃねえ!!! 滅べ!!!!!」

「……バクラさまの罵倒って本当M心をくすぐりますよね……
あっ、鼻血が……」

「はあぁ〜〜〜〜……」

バクラはまたこめかみを押さえながら、盛大に溜息をついた。


突如、ゆめのケータイが振動し、メールを知らせる音を鳴らす。

<うるせえ!テメェは黙ってろ!!
<まさにデスゲェム!!!


「な……」
『え……』


ゆめのケータイから発せられた音は、何故かバクラの怒りの声と、闇のマリクの昂っている声で――
何が起こったのかわからず…というより、わかりたくないといった様子でバクラと主人格のマリクは硬直したのだった。


「あっ、コレ、お気に入りの着信音なんです!!
ケータイで、お二人の声を別々に録音して、一旦パソコンに取り込んで合成して……」

「黙れ聞きたかねぇよ!!」

「で、ちなみに電話の着信音の方はお二人の――」

『やめてくれぇ!!
ボクに第三の人格が生まれてしまいそうだ……!!』


ゆめの執念というかストーカーじみた気質に二人は戦慄し、詳細を聞くことを頑なに拒否するのだった。


「あ――
遊戯さんが勝ったみたいですよ!!!
決勝戦は闇のマリクさまVS遊戯さんですね!!」

ゆめがメール画面に目を落としながら二人に伝える。


バクラとマリクの表情はその言葉を聞いて真面目なものに変わり、三人は連れ立ってタワーへ向かうのだった―――


「てめえは付いてくんな!!
一人で行ってろ!!!」

バクラの罵声がゆめに浴びせられたが、ゆめは今更まったく動揺することもなかったのだった――








「只今よりバトル・シティトーナメント決勝戦を開始する!!」


タワーの屋上。


ついに、遊戯VSマリクの闘いが始まろうとしていた。



周りには、マリクを見つめ佇むゆめ、ラー攻略のカードを遊戯に渡した海馬、緊張した面持ちで見守る仲間たち、皆の背後で闇の気配を消しながら様子を伺うバクラ、そしてイシズ。


――イシズは弟マリクの身を案じていた。

(遊戯……こうなった以上、イシュタールの宿命は今、あなたの手に委ねられています……

そして――)

イシズの透き通った双眸が、離れた場所に立つゆめを捉えていた。


(正直――あなたがどんな働きをして、どんな影響をもたらしたのか私にはもはやわかりません――

ただ、あの闇に堕ちたマリクの気配……
ほんのわずかですが、前とは違う気がします……。

遊戯、ゆめ……!!
どうか――この闘いの結末が良いものでありますように……!!)




―――決闘(デュエル)!!!!


例のごとく、あたりが黒い闇で覆われていく。

何度も見た光景――闇のゲームの始まりだった。


「あああっっ!!??」

ゆめが素っ頓狂な声を上げ、目を見開いて闇の中に立つ二人を凝視する。


「うそ……もう一人の遊戯さんが……」

ゆめの目は、闇の中で拘束されている表の遊戯の姿を捉えていた。


「ほぅ……
てめえにはアレが見えるのか……
やっぱりお前は普通じゃねーな……
罰ゲームから生還した時に余計な力まで貰って来ちまったってか……面白れェ。

ククッ、そうだよ!
この闇のゲームは互いのもう一方の人格を生贄に戦りあうみてえだな……」

ゆめの背後でバクラが、小声でゆめに囁く。

「互いのもう一方の人格……!?
ってことは、闇のマリクさまの生贄は――」


「ぐああああ!!」

マリクの攻撃によって、早速遊戯がダメージを負う。

「モンスターの攻撃はプレイヤーに苦痛を与え……
失ったライフポイント分、生贄が闇に喰われるのだぁ!!
うわははははぁ!!」

「ぐわあああ!」

捕われた遊戯の脚が闇に消えていく。

『相棒!!』

「そしてオレの身替わりとなる生贄はこいつだ……!」

『もう一人のマリク!』


「ッッッやっぱり……!!」

闇人格のマリクの背後に捕われていたのは主人格のマリクなのであった。


「プレイヤーのライフが0となり生贄の肉体がすべて闇に喰い尽くされた瞬間――
そのプレイヤーも究極の苦しみと共に闇に葬られる……」

「そ……んな」

さすがのゆめも声を失って固まっていた。


「ちっ……マリクの奴……
あの闇人格のヤツにオリジナルの主人格を捕われたために気を失ってやがるのか、宿主の獏良に宿ってるマリクに呼びかけても反応がねえ……!

まああったところで、残留思念でしかねェこちらからオリジナルに干渉できるとも思えねーけどな」

「そんな……!」

救いのない状況に、ゆめの顔は悲痛に歪んでいた。


「遊戯……オレ達は千年アイテムに選ばれた者同士……
ルールは負けた者のどちらかが消え去るフェアな闘いだ……」

決闘場に立つマリクは不敵な笑みを浮かべ、遊戯と言葉を交わしている。


「ああ……っ!!すごく――すごくキモカッコイイけど、でも……!!
どちらかが消えないといけないなんて……!!!」

ゆめは昂る気持ちと不安な気持ちの狭間で苦しげに悶えていた。


「ククッ……面白いことを言いやがる……!!
フェアな闘い? 笑わせんじゃねえ……!」

ゆめにだけ聞こえる声で、バクラが肩を震わせて嘲笑う。

「ど、どういうことですか……?」

ゆめは背後を振り返り、バクラに小声で問い掛けた。


「ククッ……遊戯の方は、生贄にされている器の人格が闇に食われちまえばファラオの魂である遊戯の方も消えちまうが――
一方マリクは、たとえ主人格が闇に食われようと、闇人格の方には影響はねェのさ……

しかも主人格を盾にしてやがるから、いざとなったらあの甘っちょろい遊戯は攻撃を躊躇うだろうよ……!!
ヒャハハハハ!!
マリクの奴、随分とゲスいことを考えやがる!!
さすが闇人格だなァ!! あぁ!?」

声を潜めて高嘲笑うバクラの傍らで、ゆめは言葉を失っていた。


「そ……んな………
そんな戦い……フェアじゃない……」

ゆめは唇を噛み締めて、決闘場の上で遊戯と対峙する闇人格のマリクを神妙な面持ちで見つめ直す。


遊戯との決闘を進めるマリクは、ちらりと下にいるゆめに視線を送った。

その視線に答えたゆめが、心配そうな眼差しでマリクを見つめ返している。

「マリクさま……」


(――オレは消えねェ……
主人格がオレを消そうとするなら、主人格だけ消えりゃいいだけの話――

もっとも――
この決闘、ラーを所持するオレの方が有利……
消えるのは遊戯の方だがなぁ……)

正面に向き直り、クククと邪悪な笑みを浮かべるマリク。


そして決闘は――さらに危険な領域へと進んでいく――







「…………」

無言で決闘を観戦するバクラの額には汗が浮かんでいた。

(おいおい――
想像以上にヤベェじゃねーか……
ラーの翼神竜の特殊能力はよ……!!

クソッ……マリクの主人格の方は、ラーの全ての能力を知らなかったみてーだな……!
ムカつくがたしかにこれはマズイ……

ゆめが言った通り、ヤツとまともに戦ってたらオレ様もただじゃ済まなかったろう……
チッ、ゆめの言に救われるとは忌ま忌ましいが――!!)

「バクラさま……?」

「ッ、なんでもねーよ」

ゆめの双眼がバクラを覗きこんだが、軽くあしらった。


(このままじゃ遊戯がヤツに勝てるかどうかは怪しいもんだ……それに……
遊戯のヤツ、案の定マリクの主人格の身を案じて本気で攻撃するのを躊躇ってやがる……!!

クソッ、もし遊戯が負けて消えちまったらオレ様の目的も果たせなくなっちまうだろうが――!!)

バクラは軽く舌打ちをし、決闘場に立つ遊戯を睨め付けた。

躊躇うんじゃねえ、と呼びかけようとしたところで前に立ち塞がったゆめに視界を塞がれる。

「大丈夫ですよ……
遊戯さんならきっと何とかしてくれるはずです。きっと」

バクラの様子に気付いたゆめが、優しい声をかけるのだが。

「何言ってやがる……! このままじゃヤベェんだよ、遊戯のヤツは――」

「はじめにバクラさまが言ったように、遊戯さんは甘いから、主人格のマリクさまを盾にされて攻撃を躊躇ってるってことですよね??

あとはカードの能力的に遊戯さんが勝つのは厳しいってことですか?」

「ッッ!!」

的確なゆめの分析にバクラは思わず言葉を失った。


「……貴様は真面目にしてりゃ本当アレなんだがな……」

「えっ?」

「ッ――なんでもねえよ!!」

バクラはやりづらそうに頭を掻いてそっぽを向いた。



『バクラ……! ゆめ!』

突如、主人格のマリクの声が響く。
同時に、生贄にされて切れ切れになった姿のマリクがバクラの横に姿を表した。


「マリクさま!」

「テメっ……やっと戻ってきやがったな」

『もう……、いいんだ……』

「あ?」

『もう……いいんだ……
ボクはもうじき暗闇の世界へ行く……
ボクの最後の力を振り絞って……闇人格のあいつだけは道連れにしてね……

ゆめの言う通り、ボクと闇は表裏一体――
闇人格だけを消そうなんて都合の良すぎる話だったんだ……

そして、たとえ生贄にされても――
マリク・イシュタールであるボクには、どんなことをしてでも闇人格を連れていく義務がある――

遊戯にはボクが呼びかける。
攻撃を躊躇うなと……

だからバクラ、もしボクの力が及ばない時は――
その千年リングの力を使って、闇人格を道連れにする手助けをしてほしい……

二人とも今までありがとう……
もう……終わりだ……』


「なっ!!!!????」

「ほう……
貴様にしては潔い最期じゃねえか……

いいぜ、オレ様の目的の為に力を使っ――」

「っふざけんじゃないよです!!!」

ゆめの天を割るような声が屋上に響き渡った。


「主人格さまも――ましてや闇人格さまも、消させやしない……!!
どうしてお互いに、後ろ向きな考えしか出来ないんですかっっ!!」



「!!!!!????」


ゆめの声に反応した皆がいっせいにそちらを注視する。


「貴様ぁ……っ!!」

『あれは……!』

「ゆめさん!」

「なんだ? ケンカか?」

『貴様ら! 決闘の邪魔をするなら――』


主人格の姿を捉え憎々しげに吐き捨てる闇マリク、驚愕する遊戯、ゆめの吐いた主人格も闇人格も消させない発言に雷を打たれたように目を見開くイシズ、そして何が起こったかを理解できずにいる遊戯の仲間たちや、海馬。


そして――

主人格の残留思念はゆっくりと消えていき、かわりに杏子の身体を借りて、主人格のマリクは皆に聞こえるように言葉を紡ぐ。


「遊戯!
ためらうことなどない……
ぼくはすでに死ぬ覚悟はできている……!!

ボクと共にボクが生み出した邪悪な心を打ち砕いてくれ!!」

「マリク!!!」

皆の視線が今度はそちらに集まり――

ゆめはキッ、とバクラに向き直ると、

「バクラさま!
あとちょっとだけ――待って下さいお願いします!!」

いつになく真剣な瞳でそう吐き出すと勢いよく走り出し、エレベーターでタワーを降りていくのであった。



ダメだ――

このままじゃ――


声が届かないなら。

想いが伝わらないのなら。

さらに大きな声で、さらに大きな想いで――

伝えれば良い。


「あの人の力を借りないと……!
あの人なら、きっと―――!!!」




「絶対マリクさまを救ってみせる……!!!
闇人格も……主人格も……!
どちらも消させやしない……!!!!!」

燃える瞳を滾らせるゆめは、息を切らしながらタワーを抜け、全力でバトルシップの方へ駆け出して行くのだった――







(――ゆめのヤツ……何を企んでやがる……)

闇人格のマリクは、姿を消したゆめが気になっていた。


『主人格も闇人格も消させない――』

あの時響き渡った声がなぜか頭から消えてくれなかった。


主人格サマは、遊戯の仲間の身体を借りて姉上サマたちと下らねえ茶番劇を演じ、声高らかに
「父上を殺したのはもう一人のボク自身…そう貴様だ!!」
とかやってやがる。


(くだらねえ……)

闇人格とはいえ自分自身の片割れがやった事には違いないのに、ずっと真実から目を背け、それが明らかになった途端、罪の意識で押し潰されそうになってやがる。

弱っちい存在……

――だからこそ、オレが生まれた。

主人格は、全てを背負う強さを持っていなかったから――



「あきらめなぁ……
そして勝手に死んでいきなよ主人格サマ!

この状況で遊戯がオレに勝つ方法なんざありゃしねえよ!!」

吐き捨てた瞬間、また脳裏にゆめがちらつく――今度はあの、闇を見透かすような双眼が。


「ちっ……」

頭を振り、その幻想を掻き消した。


(ゆめよ……
どこへ行ったか知らねえが……

この状況で貴様に出来ることがあるならやってみなぁ……!
できるものならな……!!!

――もし出来たのなら……
その時オレは――)


一瞬だが、闇人格のマリクの口の端がわずかに上がり、目は寂寥と諦観を帯びたものを漂わせたが――誰もそれに気付くことはなかった。

再びマリクの双眸に狂気が宿る。


「さて……決闘続行といこうぜぇ遊戯……!
オレのターン!! ドロー!!」










一方、タワーを抜け出したゆめは――



「リシドさん……リシドさん!!
起きて下さいリシドさんっ!!!」


バトルシップの中、未だ気を失ったままのリシドを揺り起こしていた。


「お願いリシドさん……!!
あなたの力が必要なんです……!!!

でないと、マリクさまは……マリクさまがぁっ!!」


リシドは目覚めない。



「ああもう――!
どうしたら起きてくれるんですかっ!!

えっちな本やDVDですか!? お酒ですか!? それとも豚肉ですかっ!?
偶像崇拝ですかぁ〜〜〜っ!!!!」

ゆめはリシドを勝手にイスラム教だと決めつけてイスラム社会では禁止されているものをあげつらった。


「あう……
こんなことだったらマリクさまやイシズさんの裸の生写真でも持ってくるんだった……」


ぱち。


「まあ、まだ撮ってないですけどね――

ってええええっ!!!!!

り、リシドさん!!!??
起きました!!??」


リシドは両の眼を見開いて確かに覚醒していた。


そして、ゆっくりと身体を起こす――


「ぐっ――」

「リシドさん!! 大丈夫ですか!!??」

「っ――お前は……!」

「話しはあとです!!
マリクさまがヤバイんです!!
今すぐタワーの屋上に来て下さい!!!!

……って、その身体じゃ急げませんよね……!」

「マ、マリク様が……!?」

「ええ〜〜い!!!!
持って生まれたこの身体、ここで使わなきゃ意味がない!!!!

か弱い私の肉体だけど……今だけでいい、火事場の馬鹿力を私に――ッッ!!!!!!

魔法カード発動、火事場の馬鹿力!!!!!」

「!! なっ、なにを――!!!」


「うらああああああっっっ!!!!!!!!

おーれのねだーんをだーれがきめたッッ!!!!!!!!!!!!」


「なっ!! うわっ!!!!!!!」


ゆめが艦全体を揺るがすような咆哮で吠えると、その背に自身より大柄なリシドを背負い始めた!!!!


「っっ!! お前では無理だ――」

「できるできるやれるやれる!! っていうかそんなに重くないやイケるイケる!!!!!」


ゆめはリシドをその背に背負ったまま、立ち上がって歩き出した。


「あ……ありえないぃ……」

闇マリクのような言葉を吐いて得体の知れないゆめに怯えていたリシドだったが、身体にまだダメージが残っていることもあり抵抗する気力はないようだった。


「いけるいけるできるできる!!!!
諦めない諦めないわあああい!!!」

そのままゆめは歩を早め……部屋を出て、あろうことか走り出す。


「おおおおお!!!!
行くぞ銀!! 流れ星のように!!!!!」

「ア、アンビリーバボー!!」


わけのわからないネタ雄叫びをあげながら走るゆめと、女の子に背負われてペガサスのような素っ頓狂な声を上げているリシド――タワーへ向かっていくその二人の姿を、KC社員は見なかったことにし――
そして「転職したいな〜」とぽつりと漏らすのであった――





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