緩くなった律動の中で、バクラの舌が咥内を荒々しく蹂躙していく。
耳を塞がれ、反響する淫靡な水音にただ心を掻き乱された。
こちらも負けじと、首筋に回した手でバクラの髪を掻き乱す。
髪の隙間から香ってくる僅かなシャンプーの香りは、私の心をさらに昂らせた。
「んっ……、ん、……っ」
バクラの腕の中で弄ばれて、身も心も支配されていく事が、ただ嬉しかった。
バクラが邪悪な存在だなんてことは……、今は魂だけの存在だなんてことは、とっくに知っている。
私とバクラに、明日がないってこと……、はじめからそんなのわかってる。
わかってるからこそ、今は、こうして――――
「桃香……っ、お前は、本当に……っ」
「っ、はぁっ、……バクラ……っ、あ……!」
バクラと、本当にひとつになれたら。
本当に、溶けあえたら――――
「バクラ、あっ……! す、き……、すき……!!
っ、あいしてる……、あっ、あいし、て……」
好きや、愛してると言う言葉では伝えきれない。
言葉にならない想いが膨れあがって呼吸を圧迫する。
どうしていいかわからなくなって、唇を震わせたところで。
「あぁ……、連れて行ってやるよ……っ
果てまで……っ、オレ様が往く、あらゆる果てまでな……っ!!!
桃香……っ!!」
息を切らせながら吐き出されたバクラのコエは――
火傷しそうな熱に浮かされた私の脳天に灼きついたまま、ついぞ離れることはなかったのだった――――
「ん……」
まどろみの中で、気怠い身体をゆっくりと起こす。
目をこすり、辺りを見渡してみれば。
――バクラはもう居なかった。
しかし。
どういうわけか、ベッドの足元には、バクラが着ていた服が固まって置かれていて――
というか、シャツだけではなく、ジーンズやら、何やら…………
「………………」
息を呑んで、その布のまとまりをじっと眺める。
バクラがここまで着てきた、ジュースがこぼれたのとは違う服。
……バクラは裸でどこに行ったのだろうか?
しかし、そんな疑問よりも、まずは目の前にあるものに私の思考はまた侵されていく。
……バクラの服…………
しかも、シャツだけではない…………
ハッと我に返り、ぶんぶんと頭を振る。
ダメだダメだ。
またこれを手に取ったら、自分が何をしでかすかわからない。
また、バクラに「変態」と罵られることだろう。
しかし、……
しかし――――
深呼吸をして、もう一度服の山を見つめる。
ああ何て、私の理性は脆いのだろう。
そして、ぎゅっと握りしめていた拳をほどくと、ゆっくりと……、服の山に、手を伸ばし――
「おい」
「ッッ!!!!!
あっ! ええっ!!??」
伸ばしかけた腕を思わず引っ込め、声のした方に視線を向ける。
部屋の入口に立っていたのは――バクラだった。
しかも――――
その上半身は裸で、千年リングだけを首から下げ、下半身にはバスタオルを巻いて、仁王立ちになっていて。
「えっ……あ!? バクラ!!??
もしかしてうちのシャワー使ってた!? あ――」
「……わかってんだよ、今オマエが何をしようとしたかなんて事はな……!!
ったく……、本当オマエはどうしようもねえな……!!」
「うっ、あ、こここれは……!!!
っていうかその格好……!! あぁ……っ!!」
何が何だかわからない。
上半身裸で現れたお風呂上がりのバクラ、そして、また服を手にいかがわしいことをしようとしてしまった自分、そして……、
それを言い当てられてしまったこととか――
あらゆる刺激が一気に襲いかかり、私の心臓は派手に飛び上がって胸を締め付けたのだった。
たちまち熱く火照っていく頬を慌てて手の平で押さえてみるが、邪悪なものを眼に宿したバクラは、上気した肌を晒したままこちらに近付いてきて、私は、あ――――
とてつもなく混乱した私がそこで発したのは。
「ふ、服を着てバクラ!!!
服よりバクラが欲しい!!!!」
などという、狂った言葉なのだった――――
そのあと私は、何度ごめんなさいを繰り返したかわからない。
でも、つき合ってられない、というふうに呆れたため息を漏らしたバクラの姿が、また愛おしくて――
私の胸はまた、暖かいもので満たされて、伸ばした腕はバクラを求めたのだった――――
(変態でごめんなさい、ごめんなさい……!!)
(そのイカレた執着を、オレ様以外に向けやがったら……ブチ殺してやる)
END
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bkm