バクラの目尻がピク、と引き攣ってこちらを睨め付けた。
「……っ
貴様の……、下らねえ感情が……っ、リングに流れこんできやがる……!!」
「んっ……!? んん……!!」
「っ……、どんだけだよ、お前……っ、はよ……
こんなモン、抱えこんでたのかよ……!!!
ケッ……、くだら、ねぇ……っ」
「んん…っ!
ぷはっ……はぁっ、あっ、バ、クラぁ……!!」
「離していいなんて言ってねえんだよ……!!」
「んっ……!」
思いがけないバクラの反応に堪らず口を離したところで、すかさずリングを口に押し戻される。
「んんんん!!!! んっ、んんっ!! ん!!」
またバクラ自身に奥を抉られ、言葉にできない感覚が身体の奥底からどんどん沸きあがってきて高みへ上っていく。
「んっ、んぅっ……!! ん……ゃう、ば、くらぁ……!!
ん、いっ……ちゃ、う……っんん……!!!!」
とめどない快感が全身にもたらされ、抑えきれない悦びに揺さぶられた脳天からはもはや、理性は消し飛んでいた。
「っ……イケ、よ……!!
嫌だっつっても全部ナカにブチまけてやるから、よ……っ!!」
「んんんっ!!!!」
バクラの律動がさらに激しくなり、千年リングを銜えたままバクラの首筋に回した腕に力を込めた。
揺らぐ視界の中で、再び交わる視線――
「き……っ、すき……!!
ん、ぁ、ぃし、てる……!!!」
言葉にならない声を、必死に紡いで、そして――――
「んんんっ!! んっ!!
んっ、ぁっ、っちゃ……、いっちゃ……ん、ん――
ん、んッッッ!!!!
っんんんんん〜〜ッッッ!!!!!」
「っ……!!! 桃香……っ!!」
ビクリ、と大きく身体が跳ね、収縮した心臓が酸素を欲して胸を打った。
唇からぽろりとリングがこぼれ落ち、喉の奥からは声にならない声が漏れ、バクラを飲み込んだままの身体は大きく痙攣し――
頭の中で烈しい閃光が爆ぜ、快感の中で、意識が攫われていくのを、ただ、感じていた――――
ちゅ……
ちゅ……
ん――――
「んっ……」
首筋に引き攣るような軽い痛み。
ゆっくりと、うっすらと開けた眼に飛び込んできたのは、暗闇の中に浮かび上がる、白いもの――
それがバクラの髪だと気付くのに、そう時間はかからなかった。
「ば、くら……」
小さく呼んでみると、自分に覆い被さった影が揺らいで身体を起こす。
「やっと起きたかよ……!
ったくてめえはすぐ気を失いやがる……使えねェ……」
「ご、ごめん……」
「その折れやすそうな喉を押し潰してやろうかと思ったが堪えてやったんだ……
感謝するんだな……!」
「え……」
少し呆れたように吐き出された恐ろしい言葉に一瞬息が止まるも、気を取り直してゆっくりと身体を起こす。
部屋の小さな灯りをつけると、いつの間にかまた浴衣を纏ったバクラの姿があった。
「…………ッ」
思わず大袈裟に視線を外し、悶絶しそうになる全身を抑えつつ俯いてバクラの横に戻ると、髪をいじるフリをしながらさりげなく視線を横に向けてみた。
――が。
「チッ……、何だよ?」
「っ!! あ、えっ、なんでも!!」
「くだらねェ……」
「ごめん……だってかわいかったから……」
「殺すぞ」
「ッッ本当にゴメンなさい」
「チッ……」
布団の上で並んでくつろいでいるこの光景が、何だかおかしくて、夢のようで――
胸の中はどんどん温かくなっていって、ついほころんでしまう口元を手で押さえなければならなかった。
瞬間、チリッとした痛みが指に走り、先ほど声を抑える為に噛みすぎた指の傷を思い出す。
あらためて傷口を確認しようとしたところで、伸びてきた白い腕に手首を奪われた。
「んっ……」
歯で指を傷口ごと噛まれ、ぬるりとした熱い感触が指を滑っていく。
「や……バクラっ」
まさか、傷ついた指をバクラに銜えられ舐められるとは……
「んっ……」
傷口を軽く吸われ、覚醒したばかりの頭をまた電流が掻き乱していく。
背筋をゾクリとしたものが走っていき、高鳴る鼓動に気付かれまいと息を呑んだ。
「ハッ……、お前は……本当に……
その精神だけは認めてやるよ……!
オレ様とは真逆だが……歪んだ欲望、激情って点ではたいした違いはねえ……!
平和だ正義だっつーお友達ごっこよりはよほどオレ様向きじゃねえか……ククク」
「バクラ……、なんて……?」
指からそっと口を離し、小声でこぼしたバクラの言葉を全て聞き取ることが出来ず問い返してみるも、バクラは二の句を次ぐ事はなかったのだった。
手を引っ込めて深呼吸をし、今度は自分の番。
「バクラ……あの……、
あ、ありがと……ね……
一緒にこんなところまで来てくれて……
あまりに嬉しくて、夢みたいで……、
その、興奮して一人でバタバタしちゃってゴメンなさい……本当に……」
ここに来てからの自分の行動を振り返ると、随分勝手にはしゃいでしまったことに気付き、温かかった胸の中に後悔の感情が広がっていく。
「最初で最後だ……
それに、こんな土地にしちゃ収穫もなかなか悪くなかったしな……ククッ」
「え……」
「それより桃香さんよォ……
何か勘違いしてねえか……?
まさかこれで終わりだと思ってんじゃねえだろうな……?」
「え、」
「今度気を失ったらナイフで肉を裂いて起こしてやるからな……!
さすがのオマエも痛みで瞬時に覚醒するってもんだ……ヒャハハハ!!!」
「うぁっ、ちょっ、バ――――」
再び手首を取られ、反転する視界にデジャヴュを感じながら、夢に出て来るほど深く脳裏に刻みこまれたその烈しい眼差しがまた、胸を震わせ――
小さな金属音を立てる千年リングが宿す魂に、とめどなく、溺れていくのだった――――
幸せも痛みも、快楽も死も、相反するもの、全て――
全て、あなたと共に――――
「いたたた……」
翌朝。
痛む腰と寝不足に陥った気怠い身体を抱えながら何とかもう一度温泉に入り、あがって身支度を整えようと鏡を覗きこんだ時に――――
「っああぁぁっ!!! ばっ……バクラぁ……っ!
ううぅ……どうしようコレ……」
首筋にあったのは、いつの間につけられたのか、情事を物語るいくつもの赤い痕で。
普通に服を着たら見えてしまう位置にあるそれらを、どうやって隠そうか悩む羽目に陥ったのだった。
そして目元には、黒ずんだクマが不気味に張り付いて。
「は、ははは……」
思わず引き攣る口元。
しかし。
疲弊しきった身体とは裏腹に心はとても満ち足りていて――
バクラは何故か、ここに来る前は持っていなかったであろうカードを不敵な笑みを浮かべながらいじっていたが、とりあえず気にしない事にして――
隙を見てバクラのリングをまだじんわりと痛む指でそっと掴み、睨む彼が口を開く前に。
もう一度、「ありがとう」とお礼を言ったのだった。
この想いが……魂が、バクラに届きますように――――
そんな願いをこめて。
リングがシャラリと小さく揺らいで、耳を振るわせたのは、幸せな音色――
END
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bkm