「いっ……!」
「うるせえ! おとなしくしてろ!」
ベッドの上。
座り込んだ私の頬の傷口に消毒液が擦り込まれ、滲みる痛みに身を捩る。
かなり深く切られたのではないかと危惧していたのだが、バクラに言わせると傷口も残らないだろうし問題ないとの事だった。
自分で作った傷を、丁寧に救急箱まで持って来て自分で手当てするバクラに思わず笑みが零れる。
笑みが零れた理由は他にもあった――
あの、痛みと突き上げられる衝動の中で、バクラが悲痛に満ちた声で絞り出した言葉――
『お前はオレだけのもの』
たとえそれが咄嗟に出た言葉だとしても、盗賊の魂(バクラいわく)ゆえの独占欲から来るものだとしても……ただ、嬉しかった。
しかし、それをまた蒸し返したら今度こそ消えない傷を身体に刻まれる気がして、私は黙った。
「おらよ。
しばらくすりゃ直んだろ」
手鏡を覗いて手当てされた頬を確かめる。
傷口を覆った布の下はまだじんわりと痛むが、そんな事はもはや気にならなかった。
鏡の中の私は微笑んでいる。
「なにニヤついてんだてめえ」
「っ――あ、いや、なんでもないよ!!」
口角が上がったままの口元を慌てて隠す。
「もう一度無理矢理犯されてぇか……?
桃香は濡れてねぇところにブチ込んでも悦ぶ淫乱だもんなあ……?」
「ちょっ、やだっっ!! 本当に痛かったんだからね!」
半泣きになってバクラに懇願する。
手鏡をもう一度覗いてみれば、首の噛み跡も痣になっていた――
しかし、嫌な気持ちにはならず、むしろますます笑みがこみあがって来た。
いい加減にしないとそろそろまずい。
「そういえば……私の服……
どうしよう……これじゃ家に帰れないよ……!!」
「ククク……知らねえな。
何なら水着でも着て帰ったらどうだ……?
町中の人間に見られて、変態な桃香さんは興奮が収まらなくなるんじゃねえか……?
安心しな、オレ様がちゃんと後ろから着いてってやるからよ!
オマエに何かしようって輩が現れたら、片っ端からブッ殺して行くのさ……!
ヒャハハハハ!! 面白れェだろ!!」
「ばか……」
バクラの本気とも冗談ともつかない狂気すら愛おしく感じられて、私は溜息をついたのだった。
散々だった、この夏の出来事は……
こうして、忘れる事がない思い出として――
私の胸に、深く刻まれるのであった――
余談。
「あれえっ……?
なにこの床の傷……!
僕、何かしたのかなぁ……
それに、僕のシャツもどこかへ行っちゃったし……おかしいな……
どうしよう……、まあいっか……」
END
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bkm