「小狐丸、本日より隊列に復帰致します。」
「おかえり。再びお前の舞が見られる日々、今から楽しみだよ」
「ふふ、お任せくだされ」
艶やかな毛並みを纏わせ、小狐丸殿が修行から帰還されその報告の為にとこの離れへやってきた。小狐丸殿といえば、この本丸でも最古参の括りに入る刀剣男士だ。当初は大倶利伽羅殿、燭台切殿、初期刀である山姥切殿を筆頭に第一線で活躍していたと聞く。主は古くからこの本丸に集う刀剣男士を特に大切にしている。既に精鋭部隊として本丸に待機する古株はこうしてその極めるべき力が解放されれば、すぐにでも修行へ送り出し戦闘の第一線に戻していくのだろう。
「主、戻ったよ。…おや。小狐丸さん、おかえり。」
「やや、こんな所で。今日は近侍だったのですね」
「おかえり、石切丸。丁度良かったよ、少し休んだ後はこのまま小狐丸を連れて出陣しておいで」
「修行から戻ったばかりだというのに、相変わらず刀剣使いが荒いね。では祈祷の後、再び出陣しようか。」
「行ってまいります、ぬしさま。いち早くぬしさまのお声を頂戴したく」
「勿論だ。励むといい」
そこへ本日の近侍、石切丸殿が顔を出した。先程まで出陣部隊長として出陣していた彼は既にその力を極めている。参謀としてその様子を拝見させて頂いたが、大太刀としての圧倒的な戦力を大いに発揮し、敵を薙ぎ倒す姿は圧巻であった。石切丸殿、小狐丸殿は刀派を同じく三条として集う刀。力極めた二振が揃うと、三条派のもつ独特の空気感、…特にその妖艶さなどは一層増したように思えた。
主、おいで。短く石切丸殿が彼女を呼び、手招きしている。彼女は笑顔で石切丸殿に続き近侍部屋へと入っていった。主は度々、石切丸殿を近侍にしてはこうして彼の祈祷を受けている。終わる頃になったら茶でも用意しよう、そう考えて、私は残りの執務に励んでいた。
「主は、三条の刀を気に入られているのですね。」
二振は出陣の為に離れを去り、主はその指揮を取る為執務室へと入る。そうして、私はこんな事を呟いていた。主は私を返り見る。
今、出陣部隊で活躍している今剣、石切丸殿、岩融殿。そしてそこに小狐丸殿が加わり、精鋭部隊の三日月殿も、時が来ればすぐにでも修行に送り出されることになるだろう。彼らは主に使われている期間が特に長い。そしてこうして目をかけられ…愛されている。
私にはどうでもいい事だ。主は私の目を真っ直ぐに見て言った。
「彼らは私の元に古くから集う同志だ、大切にするのは当然さ。しかし新たに此処に来てくれた刀を蔑ろにしたいわけでもない。まぁ、刀派云々ではないさ。…私を慕ってくれている彼らの思いを、無駄にはしない」
「左様で。私の弟達も、主のお役に立ちたいと思っている筈ですから。まだまだ力不足ですが、日々精進するようにと伝えておきましょう」
「なに、そう心配せずとも、お前のことは大事にしているつもりだけどね」
「…………主。」
「ははっ、怒りなさんな」
悪戯が上手くいった。そんな笑みを見せる主。…弟達を引き合いに出した私の言いたい事は主に悟られていたようだ。私が溜め息をひとつ零すと、主は私から視線を逸らし目の前に大きく映し出された出陣部隊の映像に向ける。
「三条の子らはね、やりやすいんだよ。付き合いが長いからというのもあるが。」
「…他にも、何か?」
椅子に腰掛け肘を突く主。その後ろに控える私。
「彼らはね、…最初から分かっていたんだろうよ。それでも私を支え続けてくれたのさ」
彼女の表情は、見えない。
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