この女の傍に居ると、予想だにしない事ばかりに見舞われる。

無事修行を終えた俺は、今更ながら出陣部隊へと配属になり戦闘の最前線へ舞い戻ることとなった。どうやら俺の思いが気に入ったらしい主は、俺を近侍とする頻度も増え、今では主と顔を合わせる時間も僅かながらに取れていた。今迄この女に干され続けた不満は一体何処へやら…他愛も無い会話で笑い合えば、そんなものすっかり忘れてしまうのだから俺も単純だ。

さて、相も変わらず俺は近侍に任命されており、出陣命令が下ったものだからやってきた大阪城は地下九十九階。時の政府により解放されたこの場所を、審神者なる者、───例外なくうちの主殿も調査することになっている。長い事変わらない景色の中下へ下へと潜り続けて最下層に辿り着いた訳だが、此処が最終到達点とだけあり、周囲の空気が変わったというのは部隊の中で一等練度の低い俺でも分かる。そう素直に報告したら、何だ、怖気付いたのかい。可愛いところもあるじゃないか…などと煽られるものだから、帰ったらあの女の頬を抓っても許されるよなぁ。

戦闘の主導権を握るのは練度の高い極短刀の連中だ。俺なんかの足では到底追い付けない、とんでもねぇ速さの槍相手にも笑顔で飛び掛っていく今剣。自分の十倍は図体があるんじゃねぇかと思う程の大太刀相手にも億さず刃を突き立てる厚。大振りの薙刀になど動く暇を与えず懐に入り込み鎧を裂く薬研。残りの者は極短刀を補佐する事に徹し、相手の太刀筋を受け止め攻撃の隙を作っているのだった。特に極脇差はそれに特化している。俺も必死についていった。既に敵の一撃が致命傷となる域に来ている。油断は出来なかった、そして戦闘回数は下手に増やせない、最短で再奥まで辿り着く事が必至だった。


「大将、悪い…ドジっちまった」


そうして、主が手塩にかけて育て上げたこの極部隊でさえも、こうして傷を作るほどに敵は進化していたのだった。厚は鎧の殆どを失い、薬研も足から腕から頬から、血を流している。かくいう俺も、槍に腹を貫かれ立つのがやっとだった。さぁ、この女は俺たちの状態を見て、どう判断するんだ。最深部までは、あと一歩だというところで。


『和泉守、君はどう思う?』

「あぁ?…まぁ、今すぐ帰りてぇがな、」

『ふ、…ならばそうしようか。』

「駄目だ。」


会話を遮ったのは、薬研だった。頬の傷をぐいと拭い、にやりと不敵な笑みを浮かべるのだ。極短刀や極脇差は、出陣部隊として主の元で出陣を繰り返したからか、驚くくらい主に似た笑みをする。


「進むぜ、先に。良いだろう、大将?」

『勿論だとも。いけるね、薬研。今剣は。』

「はぁいあるじさま!ぼくはへいきです!」

『厚はどうだい。』

「言われるまでもねぇっ!!」

『噫、なんて頼もしい。なぁ?浦島、にっかり。』

「へっへーん、俺はまだ全っ然余裕だからなー!」

「君の為ならば、何処までも。」

『ふふ、そうかい。…だそうだぞ、和泉守。』


全員の視線が俺に集中した。嗚呼、之だ。ぞくぞくと俺の背を這う興奮。俺の口端もきっと釣り上がっている、そして浮かべた笑みは、皮肉にも此奴らと同じなんだろう。

この女の傍に居ると、予想だにしない事ばかりに見舞われる。そして俺も、それを待ち望んでいる。


「壊れたって知らねぇからな。」

『おお、怖い、怖い』



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