いつからか、この離れの景色は一年を通して冬になった。


「夏は、嫌いなのです。」


ある日、私はそう呟いた。守護隊に選抜され、暫くしての事だった。二の丸は四季の通りに景色が動いている。だが主の住む離れは、行く度にその季節を変えていることがあった。桜が咲き誇っていた次の日に紅葉していただとか、突如として変わる四季は日常茶飯事で、それは主の力により、気分によって入れ替えられているものだったようだ。
照り付ける太陽。響く蝉の声。踊る風鈴の音。揺れる背景、それら全てを煩わしく感じた。扇子を泳がせる主の隣で、庭を眺めながら、私が徐に零したその一言。主は弧を描く唇で、何故だと私に問いかけた。


「貴女様が、夏の雑踏に掻き消されてしまう様で、」


呟き。瞬き。貴女様の全てを、私は逃したくない。ひと時も欠かさず見つめていたいのです。そう答えた。


「おはよう、一期一振」


明くる日、離れへと向かうと、庭は一面銀世界となっていた。今日は、冬だ。その程度の認識だった。何も考えずに、部屋に暖を用意することにした。


「おはよう、一期一振」


明くる日、離れへと向かうと、庭には厚く雪が積もっていた。頬に冷気が刺す。やたらと薄着な主のその肩に、燭台切殿が羽織を掛けていた。茶でも淹れるかと、私は立ち上がった。


「おはよう、一期一振」


明くる日、離れへと向かうと、庭には近侍の前田と主が、大きな雪玉を作って遊んでいた。何と微笑ましい光景なのだろうか。緩む表情はそのままに、それを縁側から眺めていた。


「おはよう、一期一振」



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