「ナマエ!」


びくり、と肩を跳ね上げ、恐る恐る振り返れば…笑顔で駆け寄ってくるエースが見えた。私の前で立ち止まって、今日も会えてよかった。と微笑む彼に、あまり大きい声で呼ばないようにと諭す(いつも通り周りの視線が…)とはいえこの言葉も何回言ったかわからないし、彼にはあまり効果がないようだ。


「…会えるうちに会っておかないと、勿体無いだろ?」


そう言って、それはもう御伽噺の王子様の如く慣れた動作で、私の手を取り、噴水まで歩いていく。なすすべなくエースの隣を歩く私。すれ違う人が全員振り返る…もうどうにでもなってください。

ただ、会えるうちに会っておかないと勿体無いというのは…数日前に実感したばかりだ。今は戦争も佳境に入り、エースたち0組は勿論のこと、私達1組も、というよりこの魔導院に在籍する生徒全員が大きな作戦に駆り出される。戦闘に参加する限り、常に死とは隣り合わせ。私達は生徒であるが、戦場では、国のために命を賭して戦う兵士でもある。命の保証などどこにもない。

いつ会えなくなるか、わからない。


「…難しいこと考えてる?」


もやもやと考えているうち、エースにひょい、と顔を覗き込まれて思わず後ずさりした。彼は楽しそうに笑っている。いつも飄々としているように見える。私の前では、自信たっぷりのきらきら王子様。そして、他の人の前でも。…いくらこうして気持ちを通じ合わせたとはいえ、私はエースと出会ってまだ間もない。彼の表面しか知らないのは、当然だ。彼でも、弱い部分を持っているんだろうか。あまり想像できないけれど…いつも強がりの自分が泣いているところを見られているだけあって、そんなことが気になってしまう。


「…あの」
「何だ?」
「もしかして、もうすぐ作戦なんですか」


どことなくいつも以上にくっついてくる気がして、カマをかけてみた。ちらりと顔を見やると、彼は少し驚いていた。…図星のようだった。どうして、と聞かれたのでなんとなく、と答える。「ナマエには敵わないな」エースは微笑んだ。いつも、そんな風に。私は眉を顰め、一方的に繋がれていた手にぎゅっと力を込めた。


「…私。気障な人は好きじゃありません」
「ナマエ…?」
「私ばっかり、ずるい」


私のことはどんどん暴いていくクセに、自分の事を見せないなんて。そんなのフェアじゃない。どうしてそんなに悲しい目をしているの。私、貴方のことを全然知らない。今まで聞いてこなかったぶん、今度は私が、


「知りたいんです、…貴方のこと」


初めて自分から、彼に近付こうと思った。




back




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -