決してむくれているわけではない。だって私が不機嫌になる要因なんてどこにもないから。講義が終わってすぐに教室を飛び出し、クリスタリウムに籠る。そして閉館時間までそこに残り勉強をした後、寮に帰る。そんな毎日。

0組が、帰ってこない。

噂なんてものは、この狭い魔導院ではすぐに広がるもので。勿論、0組が蒼龍女王を暗殺したとかいうのも、耳にした。彼らは、…彼は、本当にそんなことをしでかしたのだろうか。
いいじゃないか。0組が帰ってこなくたって。これで魔導院の最強組は紛れもなく私たち1組。以前の認識に戻るだけ。…なのに、どうして私はこんなに心配しているんだろう。いや、そもそもこれは心配なのか?自分の気持ちがよくわからない。まとめなければいけないはずのレポートを無意識にぐしゃりと握りしめていたようで、羊皮紙がしわしわになっていた。焦って伸ばす。今日はもう、寮に戻ろう。荷物をまとめ、廊下を歩いていた。


「ナマエ」


聞いたことがある、声がする。振り返るまでもない。この声は、アイツだ。ぴたりと動きを止めた私に向かって、アイツは「ただいま」と声をかけた。ゆっくりと振り返ると、やっぱり、…エースがいた。とても久しぶりに彼の姿を見た。いつも暇さえあれば私に付きまとっていた彼を、久しぶりと思う日が来ようとは…朱色のマントが、やけに眩しい。気付くと私は、持っていた荷物を投げ出して彼の元へ走り出していた。

自分の気持ちがよくわからない。だから、なぜ私が彼に抱きついたのかもわからない。


「ナマエ…?」
「泣いてないですから…っ!」
「いや、そんなこと一言も言ってないけど」
「うう、うるさいうるさいっ!」





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