「ただいま、ナマエ」
「……。」


クリスタリウムで、講義の時出された課題をやろうと思った。それがいけなかったのか、丁度帰ってきたらしい彼と出くわした。エースだ。というか、私は何処に居ても彼と会っている気がするのだが…。机を陣取り資料を広げ、分厚い本とにらめっこしていた私は、集中していたせいか隣に座ってきた彼に気付かなかった。声をかけられるまで。


「課題、か?」
「…貴方に関係ありません」
「冷たいな」
「いつも通りです」


私は話したくもないのに、彼が声をかけてくるからそれに対応している…ただ、以前より断然に口数が多くなってしまっている。不覚だ。というか、課題の邪魔である。もう無視して課題をやろう、早急に終わらせてしまいたいのだから。このままでは予習も間に合わない…そう思い、再び本を見つめ直す。時間は有限なのだから無駄にしている暇はない。さっさとまとめ上げてしまわなくては。


「…あれ」


気付くと彼は、消えていた。よし、諦めたか。私は少しだけ軽くなった気持ちを課題に向けた。するとどうだ、彼は戻ってきたではないか。手に本を抱えて。再び私の隣に座る彼は、本を差し出して微笑む。「これ、読んだらどうだ?」はい…?ニコニコしている彼の手前、一応本を開いてみる…と……私の今見ている資料より、遥かに今の課題に適しており、わかりやすい。


「この本、参考になるんじゃないかと思って」
「…あ、……はい」
「前に読んだんだ、わかりやすいだろ?」


彼は、私の為に本を持ってきてくれたということだ。これは奇しくも課題が捗りそう…。「どうかな?」と問われたので「ありがとう…ございます」と反射的にお礼を言ってしまった。というか、これは普通に感謝するべきところではあるが。彼は私の言葉を聞いて、心底喜んでいた。彼の笑顔は心臓に悪いと思う。…顔が熱い。恐らく赤くなっていると思うので、この顔を見られまいと視線を背けることにした。


「あ」
「…なんですか」
「ここ、字、綴りが違う」
「……(本当だ)」





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