好きだ

あの時、スコールさんの青い目は、まっすぐに私だけを捉えていました。

私はもう、勘違いしなくていい立場なんだ。そう自分に言い聞かせているところ。大学にやってきていた私は再び彼にエンカウント、目の前に、スコールさんがいたのでした。たまたま、廊下ではち合わせて、今お互いが気付いたところです。…今日、スコールさんの隣には女の子は、いない。じっと彼を見つめると、彼も私をじっと見つめていたのです。


「…授業か?」

「は、はい、あと一限…」

「そうか」


スコールさんは、と聞けば、同じだ、と答える。スコールさんもあと一時限講義があるみたいでした。じゃあ、頑張りましょうね、そう声をかけて立ち去ろうと、…けれど、それはスコールさんにそっと腕を掴まれたことによって、制されていました。


「その授業が終わったら、帰るか?」

「え?ええ、バイト…ですから」

「…じゃあ」


一緒に帰らないか。彼の口から、そんな言葉が出てくるなんて思ってもみなかった私は、言葉の意味を理解した瞬間にかっと頬が熱くなっていました。ちらりとスコールさんを見上げると、彼も赤くなっていた(耳まで…)小さな声で、はい、と返事をすると、彼は私の腕を離し、また後で、と一言告げ去っていきました。


(…ずるい)


照れた私を置いて行ってしまったスコールさん。これでは言い逃げ、じゃないですか。熱く火照ったままの頬を隠すように講義室へ逃げ込み、講義中は必死にノートを取っる。しかし全くと言っていいほど内容が頭に入ってこないのでした…。

講義が終わって、荷物を片付けながら窓の外を見ると、雨が降ってきていました。良かった、今日の天気予報を信じて傘を持ってきていて。


「……悪い」


合流したスコールさんはいつかのように傘を持ってきていなかった(全くもう…)きちんと天気予報を見なくちゃだめですよ、と忠告すると、しゅんとして少しだけ目を伏せるスコールさん。か、かわいい。絆されながらも、咳払い、気を取り直しまして。


「少し小さいですけど、相合傘で、どうでしょうか」

「…頼む」

「はい、喜んで」


私の持ってきた、折り畳み傘。二人で小さな傘に入って、歩き出しました。隣のスコールさんは、私の方に傘を傾けてくれるから、肩が濡れてしまっている。申し訳ないと思って、スコールさんにくっついて少しでも濡らさないように…と思ってたら、何故かスコールさんが照れているのに気付いて。


「…可愛いな、アンタ」

「え!…もう、スコールさんが濡れちゃうと思って、私」

「手でも繋ぐか?」


私が必死になっているのを、からかっているのだろうか、この人は。悔しくなって、はい、と返事をしてやったら、やっぱりというか、彼は照れた(言い出したのは自分なのに!)

そういえば、こうしてちゃんと手を繋いで歩くのは、初めてかもしれない。抱きしめられたことはあるのに、いろいろと順番が間違っている気がする。でも、私たちはこんな感じでよかったんだろうなと、今なら思います。ただ雨の音が、心地よかったの。


「…初めから、アンタが俺のことを見てるのは知ってた」

「初めって、働き始めた時…ですよね」

「何で知ってたと思う?」


俺も見てたからだ。そう言われて、なんだかもういたたまれない気持ちでいっぱいになりました。そんなに前からお互いを見ていたなんて。恥ずかしい。

グラスを持ってくる時に、目が合ったらミルク。他のタイミングでも、目が合ったらガムシロップ。全く合わなかったらブラックだ。と、彼は唐突に言いました。それは、私が知りたいと思っていた彼のガムシロップやミルクの使用頻度。彼がそんなことを考えていたなんて誰がわかりましょうか。じゃあ、最近はずっとミルクとガムシロップ使ってたのはそういうことだったんですね。と言い微笑めば、これから先もずっとそうなるかもな、と言って、彼は綺麗に笑いました。


「スコールさんって、マメ…ですよね。そういうところとか、傘をわざわざ返しに来てくれたり。私のシャーペン用意してくれたり」

「……勘違いするな、アンタだからだ」


ふい、と顔を背けたスコールさん。本当に、私は夢を見ているのではないか。彼がこんなにも愛しい。繋いだ手に少し力を込めて、自分から彼に寄り添って。

全部が偶然だと思っていたけれど、本当にそうだったのか。無意識のうちに、自分から、彼からきっかけを作っていた。

そして、私たちは恋をした。




この恋、37℃
(いらっしゃいませ、ご注文お伺いいたします)(いつものだ)(はい!)



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